第6章 スカビオサの予兆
『どうして?解放されるチャンスですよ………お仕事、したいんでしょ。余計なことしてたんでしょ、私』
「別にそこまでして仕事をしたいわけでも、ましてや余計なことされただなんて思ったわけでもねえよ。寧ろ楽してたくらいなのに」
『じゃあ、いいじゃないですか…私が、わざわざ………なんの為に生きてるのか、ほんと馬鹿みたいになってきた』
貴方に必要とされないことが増える度、私は存在価値を無くしていく。
貴方に尽くせなくなるものが増える度、私はどんどんなくなっていく。
『ほっといて…しんどいでしょ、一々相手するのも。迷惑かけない子に、なるから……どうしたらいいの、か…教えてよ…、』
自力で生計を立てることだって出来るのに、それも許してもらえない…どころか貴方に尽くされる?
なら私はどうして生きていなければならないの?
貴方から貪っていいものなんて、私には何一つとしてないはずなのに。
こんなに残酷なこと、他にある?
「仕事は…自分の分だけやればいい。ただでさえ忙しい役職なんだ、俺の分まで請け負うんじゃねえ。心配、するから」
『…嬉しくない』
そういう心配は、嬉しくない。
なんにも心に響いてこない。
「身体壊しちまうから、そんなこと続けてると。ダメになっちまうから」
『中原さんの為に生きて壊れるなんて、本望よ』
貴方に必要とされないならば、こんな所で息をする意味が…
「お前にいてほしいから、大事にしたいんだろうが…ッ」
『、…ど……い、う…』
いて欲しい
私に、そんなことを言うだなんて。
どういうことだ、だって、私はここにいる。
貴方の為なら、私どんなことでも頑張れるの。
「生きてて欲しい…勿論元気で。笑って、幸せに…俺と一緒にだ。…俺がお前から与えられてばっかりじゃ、俺がお前に何もしてやれないどころか、お前がちゃんと幸せになれなくなっちまう」
『何、が…?だって私、…とっくに死んだ人間にされてるのに』
この世界から。
この世から。
無償の愛を供給してくれるものだと言われている、家族という血縁のみで繋がる動く器達によって。
『先祖返りとして祀られていると、役に立ててたんだって』
「役になんか立たなくていい」
『でも、悪いことしちゃったから、もう用済みになっちゃったって』
「お前にはもっと悪餓鬼になってもらうんだよ」
どうして…??