第6章 スカビオサの予兆
『渡狸、大人の女の人ってどんなだと思う?』
「はぁ?リアだって十分大人っぽいのにか?」
『年上からしてみたら、所詮子供なのよ高校生なんて』
「中原の兄貴か?可愛がられてるだけじゃねえの、それ」
いつの間にか兄貴と呼び慕うようになっていたらしい。
私の、知らない間に。
『渡狸相手に嫉妬してるものね、余裕無さすぎて笑われちゃうかしら』
悪い方向にばかり思考が向く。
『いつも思うの。どこまで我慢できるんだろう、どこまで私のこと想ってるんだろうって。それで試してやりたくなるの』
「試すって、お前また無茶しようとしてないだろうな」
『…しないようにしてるだけよ。いい子にしてなくちゃ、嫌われちゃうじゃない』
でもね、どうしても頭から離れない。
『身売りでもしたら心配してくれるかな、他の男の人と一線越えたらどれだけショックを受けてくれるのかなって、そんなことばっかり考えちゃうの、こういう時』
満たされ方が、分からない。
幸せを感じさせられて、喜ばされて…しかしそれよりも、私には、かけがえなさというものが必要に感じられて。
私がいないと生きられないってくらいに、依存させられればどんなに幸せなんだろう。
ムクリと起き上がって、渡狸を解放し、隣に座らせる。
『だって、お手伝いしたいって行動したら嫌がられるなんて思わないじゃない。役に立とうとしてるのに…それ否定されたら、リアがいる意味無いじゃんね』
「?…なんでだよ。役に立とうが立たまいが、無条件で好きだからこその愛情なんだろ??」
渡狸の純粋さが、眩しい。
私には、その感覚が恐ろしい。
眩しすぎて受け止めきれない…怖いんだ、信じられないから。
無償の愛なんてものとは無縁の世界で生まれ育ち、転生しても転生しても、何度記憶を受け継いでも同じ世界の繰り返し。
綺麗事にしか感じられないんだ。
もっと、汚いものの方がよっぽど現実味があって、よっぽど信頼に事足りることは経験上身に染みて分かっている。
『……お金、だってかけさせてるし。…返し方とか、身体以外に私何にも持ってないし。いっその事それでお金稼いじゃった方が、よっぽど私だって楽に____』
ふわりと、後ろから腕が回されて…力強く抱きしめられる。
意識を割いていなかったから、分からなかった。
「…戻って、来い。……俺ん所に」
その人がいた事に。