第5章 蛋白石の下準備
「…お前、俺に好きな事させてくれねぇの?まあ、ご主人様の命令だって言うんなら引き受けるけどよ」
『……こんなにお金、かけてもらっていい子じゃない』
「俺は俺のために使ってんの、分かってるか?ついでに勘違いしてるようだから言っておくと、俺はお前が大人しかろうがクソ生意気だろうが、どの道好きになっちまうよ」
スプーンに乗せたアップルパイとバニラジェラートを、無理やり私の口に突っ込んで食べさせるその人。
真っ直ぐな目…大好きな目。
『、?…大人しい方がいいんじゃ、』
「お前素直だよなぁ…言葉のあやだよ、悪い。気を付ける」
『……で、でも、こんなにしてもらえない』
「歳上に甘えとけ?」
ふ、と微笑む彼の顔に、私は弱い。
それに、そんな風に言ってくれる人には…どうしても、すがりつきたくなってしまう。
かけられてるお金の量とか、そういうのじゃなくて、その気持ちが嬉しくて嬉しくて堪らないのだ。
「お返事は?お姫さん」
『…それと、お金は別だもん』
「結婚して籍入れたらどの道こうなんのにかよ?練習だと思っとけ」
『!?なんで、わ、私そんなの結婚できな、ッ』
「なんでって、家族になるからだよ」
『……っ、!!』
ぶわわ、と顔に熱が集中する。
目頭が熱い…家族、なんて。
「今のうちから慣れていけ、どう転んでもお前にゃ伸び伸び生きてってもらうんだよ」
『そんな、の…でも、中原さんからばっか、』
「どうせなくならねえほど稼ぎ続けてっからいいんだよ。それに、もし俺がやばくなった時のためにお前が貯めててくれるだろ?」
アップルパイひとつで大袈裟だっての、と笑う彼。
違います、アップルパイもうこれで二十四個目です…
「まあなんにせよ、デート中くらい彼氏に華持たせてやれよ。少なくとも俺はしてやりたい人間だから」
『……ぎゅう、したい』
「…一旦店出るか、それなら」
一度会計をして、頼んでいた分はテイクアウトにしていただいた。
それから外に出てすぐに抱きつけば、抱えられ、路地に入る。
『なんでそんな優しんですか…』
「優しくした覚えはねえけど?そうだとしたら、お前の日頃の行いってやつだな」
お前が俺に優しくしてくれるからだよ、なんて困ったように笑ってくれる。
『……中原さんずるいから嫌い』
「俺は愛してるけど?」
嬉しさに顔が、綻んだ。