第5章 蛋白石の下準備
探偵社の隠れ家に繋がる地下通路。
入口に入ったあたりで、まるでお座りとでも言うようにして置いていかれる狐が一人。
『………ワン、』
「…あー!!すぐに戻ってきて構ってやるから!!な!? 」
『クゥン、…』
「待ってろー!!すぐだ!すぐだから!!」
遠くに行きながらも聞こえてはいるらしい。
地獄耳なのかしら。
確かによく響くけれどここは。
わざとらしく呼ぶ声にさえ律儀に反応を示してくれてしまうので、言うことを破ろうにも破れない。
幹部命令なんて卑怯じゃないですか。
しかもついていけない理由が酷い。
危ないから。
それだけだ。
そして、ふと探偵社の社員さんの声が聴こえるようになってきた。
賢治さんと与謝野さんの声だ、前に会った記憶がある。
ちなみに、今回私達は探偵社に情報を提供しに来たのだ。
やり合うつもりで来たわけじゃない…組合の幹部格が現れる時間と場所を伝えに来たのだから。
が、どうにも先程から与謝野さんと会話を交えさせ続ける中也さん。
ちょっと、貴方の可愛い可愛い狐様を待たせておいてそれってどういうことですか。
「じゃあいい案がある。あんたをこの場で切り刻んで、無理やり吐かせるってのはどうだい?」
「そりゃすげぇ名案だ…やってみ『浮気者おおおおッ』してねぇよ!!!!」
「!あんた、一人で来たんじゃないのかい?」
「残念ながらな。俺のご主人様はヤキモチ妬きなんだ」
「ご主人様って、さっきの声聞き覚えが…」
呼ばれた気がした。
だから幹部命令は無視した。
ご主人様って先に口にしたのはあっちだもの、リア知らない。
『すぐに戻ってきて構ってやるって言った!すぐって言った!!』
「なんで来てんだよお前は!?待ってろっつったろ!!?」
『何!?ご主人様の命令が聞けないわけ!?』
「幹部命令って言いませんでしたっけご主人様ぁああ!!?」
走った勢いで飛びついてやれば、タックルした勢いで鳩尾にダメージが及んだらしい。
勢いつけすぎたね、ごめんなさい。
「!あんた、リアじゃないか。元気してたかい?久しぶりだねぇ」
『お久しぶりです。はい中也さん、とっととお話終わらせてください。帰りにケーキ食べに連れてってくれるんじゃなかったんですか、リアご立腹です、待ちくたびれた』
「お前まじで後で覚えとけよ…ああ探偵社、とりあえずこれを渡す」