第5章 蛋白石の下準備
俺の任務に彼女が同行するのはよくあること。
というよりそれを望んでポートマフィアに入ったらしいのだから、そうなるように必死だったのだろうけれども。
「先に言っとくけどリア、お前絶対手ェ出すなよ?」
『振りですか??』
「手前、」
久しぶりだな、こういうのも。
「…まあ、やり過ぎないならいい。首領からその指示は出ていないから、適度に交渉するくらいだ」
探偵社の隠れ家なら割り出している。
事務所から一斉に姿を消した探偵社員達。
リアが割り出した隠れ家は二箇所あり、事務員とバイトの二名が避難した先と異能力持ちの社員達の隠れ家とが割れている。
あとは社長に放射性追跡物を仕込んでそれを辿れば、そちら側へ辿り着けるという算段だった。
まあ、この少女が不服そうにしている点はまずひとつ、首領がQこと夢野久作を座敷牢から外へと出してしまったことなのだが。
『交渉ねぇ?』
「……帰りにケーキ食いに行くか?」
『却下。魂胆が丸見えです』
「そりゃそうか…っておい、お前今日ヒール高いんだからこっち歩け、こっち」
道路がちゃんと整備されている方じゃなければ、いつ足を捻るか分かったものじゃない。
『…どういう魂胆ですか?』
「足捻ったら危ねぇだろうが?」
『あ…、ああ、すみません。中原さんにぶつかってもあれですし、任務に支障が出ちゃあれですもんね』
が、ここで違和感。
そろそろ慣れたが、こいつはまた自己肯定が低い受け取り方をしてしまう。
「いや、怪我したらお前が痛いだろ?」
『………?』
「なに首傾げてんだよ阿呆、何なら歩く時は強制お姫様抱っこにすんぞ手前。俺は心配してんだからな?労わってるだけだ、お前の体を…アンダスタン??」
数秒動かなくなってから、ピョコ、と生える耳。
あ、デレたこいつ。
『へ、へえ…あっそ。中原さん女の子の扱い方知ってたんだ』
「扱い方って…」
『そ、そそそそこまで言うなら聞いてあげなくもない…です』
今が仕事中じゃなかったらこのまま好きなだけ好きなところに連れ回してやるのに。
照れ隠しに使えそうだった煙草は禁煙し始めてから吸ってねぇどころか持ってねぇし。
が、そんな中少女を見て、やけに頬を染めて仲間内で何かを話している野郎が前から歩いてくる。
とりあえず腹が立ったのでガン飛ばし。
近寄んな。
…気は紛れたが。