第5章 蛋白石の下準備
「……あの、さっきから何可愛いことしてくれてんだよ?」
『…ちゅーするの好き』
朝食を摂るやいなや、俺が口に食べ物を運ぶ度に口付けてくれてしまうそいつ。
なんだこいつ、普段絶対自分からなんかしないくせに。
変なスイッチ入ってやがるな。
「俺も好きだけど…普段しねえじゃねえか」
『ダメって、言わないの…?』
「言わねぇよ、好きだっつってんだろ。…どうした、えらいしょげてんじゃねぇか」
何かを思い詰めるように、落ち込むリア。
今度は何をやらかした俺、なんで俺はこいつにこんな表情しかさせられない。
なんて思っていたのも束の間のこと。
一瞬でその考えは吹き飛ばされ、思考が停止することとなる。
『り、リアより…ご飯とばっかちゅーしてちゃ、いや』
目を逸らしてもじもじとするそいつに、目眩がしそうになるほどだ。
なんだこいつ、可愛いかよ、知ってた。
しかしもう一度言おう、普段ならば絶対に有り得ないのだ、リアがここまでデレるだなんてことは。
こんな風に甘えられたことなどなかったのだ。
「…いつも普通に食ってたじゃねえか」
『い、いつもは…だって、いつも、だし………で、デート中ならいいでしょう…?』
ダメ?
とでも問いたげに見つめられてしまえば断ることなど出来るものか。
朝からなんて俺得なシチュエーションなのだろうか、やばいこいつ可愛い。
「…いつもして欲しいわけじゃねえの?」
『いつもとか無理!!』
「俺からして欲しくねえのかよ?…へえ、なんだ。てっきり恥ずかしくて遠慮して言えなかっただけなのかと思ってたのに」
『だ、だだだだだって言ったら絶対引かれるって…ッ』
「……」
言っちまってるこいつ、全部言っちまった今。
気付いてねえのかもしかして、俺の言ったこと全部肯定しちまったってのに。
「別に、引かねぇけど。それくらいのこと」
『お、重たくないの!!?』
「重たくねぇよ、俺だってそう思うし」
まあ、多少食べるのに時間がかかるなと思うくらいで。
じゃなきゃ、どうしてこの俺が誰かに口移しで物なんて食べさせるか。
分かってねぇなこいつ、さては俺を心の広い菩薩のようにでも思っていねぇか?
『…中也さん、大好き』
ちぅ、とまぁ可愛らしいリップ音を立てながら、頬に口付けてくれてしまう。
…いや、懐きすぎだろお前。
「何お前、可愛んだけど」