第5章 蛋白石の下準備
『ちょ、っと、だけ、待って…ッ…い、今イっちゃった、から待って…!!』
「…いいよ、待ってやる。ゆっくりでいい」
可愛がらせてはもらうのだが。
それくらいは容赦してやろう…お前がそんなにも必死に抱き着いて甘えてきてくれているのだから。
「自己申告しちまうたぁ、素直じゃねえか?可愛い奴」
『、か、わい…?……ほんと、に…??』
「俺が嘘でんな事言うかよ」
『……こう、してるの…すき…』
「!…へぇ、覚えとく。…続きしていい?」
まだいやだと言うように、首を振って駄々をこねられる。
可愛いから許した。
「じゃあ、キスは?」
『…好き、だけど……中也さん、いっぱいぎゅってしたい』
どうしようもないほどに煽られる。
リア自身にそのつもりもなければこんな事態になっているという自覚もないのだろう。
が、自分の愛してやまない女に…情事の最中にそんな甘え方をされて、昂らないでいられる男がいるものか。
「中也さん?」
『ぁ、…ちゅ、うや』
「ん、いい子…呼べんじゃん」
『……なん、か…変な感じ。…中也さ、…年上の人、なのに』
大人の男として、十二分に意識されてしまっているらしい。
素直に嬉しかった、彼女にそう見てもらえていたことが。
ただの、少年の頃の俺の憧れで終わらなくて。
ただの俺の…初恋の夢で終わらなくて。
海音が現れなくなってから。
正確には俺も会えなくなってしまってから、ずっと幻だったんじゃないかとさえ思っていた。
それで、それを忘れるように生活して。
リアに出会った。
初対面から失礼な物言いの、どこか太宰に似た目をした女だったのだが、纏う雰囲気は海音のそれ。
髪色だけで、彼女の自殺を邪魔してしまったほどだったのだから。
「結構礼儀正しいよな、お前。昔はもうちょっと砕けてなかったか?」
『子供同士って、そんなものじゃないですか…再会したら、すごく男の人になってたから』
まあ、成長期というものがあったからな。
成長期というものが。
大事なことだぞ。
何がとは言わないが。
『歳も、知らなかったの…やっと、知れた。貴方のこと、いっぱい』
…嬉しそうにしやがって。
こんなに心地よくさせられたら、無闇に鳴かせる気も失せる。
愛しくて愛しくて、堪らない。
俺だってこんな気分は初めてなんだ。
「……大事にする。これから、もっと」