第5章 蛋白石の下準備
『なんか、その…ずるい』
たまらず素直な気持ちを声にしてこぼしてしまえば、少し間を空けてから彼女は恥ずかしそうにする。
ずるいというのがどれに対してなのかはよく分からないが、満更でもなさそうなのでよしとしよう…にしても本当に癖になりそうだ、狐飼ったら嫉妬とかしてくれんのかなこいつ。
「ずるくはないだろ、思ったこと言ってるだけだ。…妖館で狐飼ってみようかな、お前見てっと飼いたくな____」
飼いたくなってきちまうし。
言い切れなかった。
彼女の表情を見たからというよりは、彼女が顔を埋めている自身の胸元の衣服が盛大に濡れ始めたからである。
おい、待て、なんで泣いてる、そんなキャラじゃないだろうお前は。
慌てて彼女の顔を胸元から離し、その表情を伺えば、ボロボロと大粒の雫を頬に大量に伝わせながら泣ききっていた。
待て待て待て待て、意味が分からん、怒るならまだしも泣かれる意味はマジで分からんぞ。
「え、っとその………どう、した…?って、聞いていいか?」
『…り、あは…飼わない…?……い、いらなくなっちゃった…?いらない、?もう嫌??』
「え゛、おま…っ…!?」
そうか、そっちか。
そういったのかお前は。
その解釈は予想外だった、拙ったな。
なにせ俺はリアの泣き顔にとことん弱い挙句、しかしこの表情は理由も含めてまた一段と可愛らしいのだ。
半分照れくさいのもあってオロオロするも、リアの不安は拭えない。
『だ、って…か、飼うって…新しい子自分のにするって…ッ』
「あぁぁああそのな!?違うぞ!?リアのこと見てると狐が好きになっちまうなってことで!!」
『リアのことは飼ってくれないのに普通の狐さんならいいんでしょっ、?先祖返りなんかじゃなくて普通の狐に生まれたかった…!!!』
ガチ泣きだ、ガチ凹みだ。
要するにマジだ。
己のボキャブラリーの少なさに突っ込む隙も与えない程の本気具合だ。
「……リアと出逢ってなきゃ、狐好きになってすらねえと思うんだけど」
『…他の子飼いたいって言った』
「いや、その…お前見てっと可愛いなって」
『嬉しくない…っ、なんで中原さん他の子に取られるの!?女狐なんか絶対にやーよ!!』
「や、妬いちまうのかなって気になっちまってよ…そこまで言うなら別にわざわざ飼わねぇし、?」
再び硬直するリア。
緊張が迸る。