第5章 蛋白石の下準備
彼女と交際して少し経ってから、段々と分かるようになってきた。
いや、声にして貰えるようになった。
今は嫌だ。
もう無理だ。
怖いから。
性的な触れ合いに恐怖すると、この少女は俺に伝わるよう、声にしてくれるようになった。
初めて抱かせてくれた日。
あれは、今思うとまだ少し怖がられていたのかもしれない。
既成事実を作ってしまえばなどと宣う輩も俗世間にはいるそうだが、俺たち二人の場合は寧ろその逆で、身体の関係を急げば急ぐ程に繋がれなくなる類の絆だ。
だからこそ、いくら身体で繋がれなくとも、途中で口付けを拒まれようとも、彼女のためならば構わない。
しかしこいつは、俺の未来を心配して俺を拒もうとしたらしい…健気な奴だ。
リアが視たと言うのであれば本当にそうなのだろう。
だが、そういう恐怖ならば俺はお前を諦めはしない。
我慢もしない。
まあ、周りからの助けもあって和解した上に碌でもないモンの使い方まで仕込まれちまってるわけだが。
布団に入って、俺に対しての一切の心配事が無くなるとリアは自分から抱きつきにくる。
受け入れていたものを、求めるようになる。
つい最近だ、こんな癖がついてきたのも。
元々そうだったのに今まで気付かなかっただけなのかもしれないが。
俺は心まで読めるわけではないけれど、甘えさせてもらう許可が降りるのは、リアにとっては至上の褒美なのだろう。
こういう所がちゃんと餓鬼らしくて安心するというか…愛らしいというか。
「どうしたどうした、タックルしてるか?もしかして」
『…マーキング』
少し茶化してみようと言ったのだが、本気で素直になってしまったリアはこの通り。
俺を驚かせてばかりだ。
思わずリアクションが取れずに、気を取り直したらすぐに反応を示す。
「マーキングって、そんな猫みてぇな…」
言いかけたところで、思い出した。
猫?いや、確か犬にも似たような行為が……待て、こいつ今変化してるよな。
「ちょっと待てよ」
すぐに携帯を開いて、【狐 マーキング行為】で検索をかける。
するとどうだろう。
マーキングと思わしき行為に、ちゃんと耳元、それに伴って頭部を擦り付ける…といった内容や画像が見つかってしまう。
微笑ましすぎて思わず笑っちまうわこんなもん、本能ですってか?
お陰様で、こちとらイヌネコよかキツネ様が大好きだよ、馬鹿。