第5章 蛋白石の下準備
手を取るように促され、彼がこちらに差し出した手に自分の手を乗せる。
すると微笑みながら彼はそれに指を絡めて握ってくれ、そのまま横抱きにして抱き上げられた。
『!!?ちょ、な、ななな中原さ、…っ』
「悪い、怖がらせちまったみたいで…怒ってねえから安心しな。売り言葉に買い言葉ってやつだよ…約束通りお前のことだけ見てっから」
『こんなところで何言っ…、…ッへ、……は…っ、?』
額に簡単にキスしてしまったその人に、頭の中が真っ白になった。
あれ、何してんのこの人、こんな知ってる人達の前で堂々と私に向かって何を…
「ほら、行くぞ不戦敗者?大好きな俺との屋外デートだ、気合い入れろ?……それと“蜻蛉”」
少し間を置いてから、彼は殺気とよく似た圧力をかけるようにして、カゲ様に向けて振り向き、宣言するように言う。
「こいつかっさらってくなら、先に俺の事どうにかしておいた方がいいと思うぜ?…微塵も渡すつもりねぇからよ」
悪いマフィアの顔…ゲスい顔だ。
こういうこの人の黒い表情、ゾクゾクする。
私の事独り占めしてくれちゃうの…ドキドキしちゃう。
「宣戦布告か?悦いぞ悦いぞ…!!!私のリアを略奪しようとは!!」
「言ってやがれ、俺が生まれる前からこいつは俺のリアなんだよ馬鹿野郎…」
『リアそろそろ恥ずかしいからなんとかし「悪い、そうだな。お前に構ってやらねえと…」な、かはらさ…っ、ちょ、キスし過……ッッ』
ちゅ、ちゅ、と繰り返し注がれるキスの嵐。
額に頬に瞼に、こんなの耐えられるわけがない。
「……完全変化しちまってますよお嬢様?襲っていい?」
『も、…も、う…好きにしてくらしゃぃ…っ』
「そうだな、好きにしてほしいな?よし分かった、美味い飯が出るホテルがテナントにあってなぁ…好きなだけ食わせてやるよ」
「…御狐神君、流石に盗聴はやめてやれ今日は」
「聴かれる方が、リアも燃えるかと」
「私も混ざ「手前は来んな、やらん」過保護だなぁ…だが夜はドSと見た!!はっはっは!」
変化状態がしばらくなおりそうにないからこその配慮もあるのだろうけれど、聞いたことがある。
ポートマフィアの所有するテナント…そのホテルといえば。
“そういう”ホテルも勿論入っているわけで。
『…っ、…噛んだら、殺す…か、ら…』
「!承知した…甘めにしとく」
『噛まないでって…』