第5章 蛋白石の下準備
「はい、ちゃんとこれでボタン止まってるな?寒くないか?」
『…寒くなかったら、離れるの』
「いや?お前が俺を欲してるんなら、いつでもどこでもどんとこいだよ」
正された服の上から、また触れ合う。
生きてる…大丈夫、夢じゃない。
まだ夢じゃない、まだこの人は生きてる。
考えるのはこんなことばかり。
「にしても、全身俺の印でいっぱいたぁ…物好きだよなお前」
『このままここで飼ってくれてもいいのよ。他のもの何も見ないように……他の何にも見せないように、中也さんだけのものにするの。ゾクゾクしない?』
「そりゃぁいい、名案だ。…って言いてぇところだけど、残念ながらお前の事連れ出してもっと色々させてやりてんだけど?」
『屋外デートはお断りよ…妖館の中だけの関係』
「………屋外デートOKって言うまでまた勝負すっか?」
『…勝てっこ、ないから…いや』
外だと、危ないから。
「じゃあリアの不戦敗になるけど」
むう、と頬を膨らませてみる。
他人事じゃ済まされないようなものなのに、どうして本人がこうなのかしら。
しかも面白そうに笑いながら膨らませた頬を突つかれるし。
「大丈夫、俺一人ならそうかもしれないけど…リアがいてくれりゃ、大丈夫だよ」
『…なにその自信。ばっかじゃないの』
「馬鹿じゃねえよ、これでも買ってんだぜ?お前の手腕は」
五大幹部様からのお墨付きだぞ、なんてまた茶化す。
茶化してるノリの割には本心らしいけれども。
『本気の中原幹部にはかないっこないって思いません?』
「思わねえよ」
『…そ、う。…どうして?』
「……なんとなくだ。…俺が汚濁を使う時、いつも太宰の野郎と一緒にお前の姿がちらつきやがる」
汚濁。
聞き慣れない単語に首を傾げれば、ぽん、と頭に手を乗せられた。
「まあ、俺の異能の本来の姿だ…お前なら、どういう意味か少しくらい分かんだろ」
ああ、そういう…
またそうやって、自虐的に笑うのよねこの人。
また…泣きそうな声してから、虚無感に苛まれたような瞳になるのよね。
『……まあね、リア天才だから』
「お?えらくいつもより覇気がねぇな?」
『中也君がリアちゃん大好きっ子だってのはよぉく伝わったわよ?胸に飛び込んでくる??』
「お前そんな直接的に…恥ずいから却下。理性持たなくなる」
この人も独りじゃダメなのね。