第5章 蛋白石の下準備
自身の部屋で暫く、馬鹿みたいに残夏君に泣きついていれば、次第に呼吸も落ち着いてくる。
「…だいぶ落ち着いたね。どこか痛くない?」
『……痛いのは中也さんだから、なんともない』
「律儀だねぇ、ほんと優しんだから。…で、どうするの?彼、多分手引くつもりないよ」
シークレットサービスの件だろう。
それに関しては、できるだけ遠ざけるつもりではあるけれど、一つ問題がある。
『私が、どこか引っ越す』
「そしたら多分着いてくると思うけど?中也たん執拗そうだもの」
『…撒く方法は?』
「無いね。何より、寧ろリアたんが彼のこと追っかけてくつもりなんでしょ?」
全て、お見通しであるらしい。
いや、追いかけていくと言うよりは、ただのストーキングだ。
直接私と関わることになるのは、せめて仕事でだけでいい…仕事はさすがにやめられない。
私がやめて組合との抗争に影響が出れば、結局彼を危険に晒してしまう。
「……一緒に住んでおきなよ。確かにショックなものを視ただろうけどさ…それ、中也たんが回避出来てもリアたんが請け負っちゃうだけになっちゃ、意味無いでしょ」
『意味なら、ある』
だって、彼は生まれ変わらない。
私は生まれ変わって、記憶を引き継いでいく。
絶えない魂なのだから。
「……じゃあいいものあげよっか?」
いいもの?
言葉にせずとも、彼を見つめて首を傾げる。
すると、ここまでは視えていたのだろう。
彼は少し大きさのある、ふかふかのクッションを取り出した。
表にYES、裏にNOと書かれたそれは、野ばら姐さんかカゲ様かに見せられたことのある雑誌で見たような気がしないでもない。
「本来の用途とは違うけど、リアたんとは相性いいだろうから…踏み込んだ会話が難しかったり、声にする勇気が出なかったら使ってみなよ」
遠回しを通り越して、直接的に言われている。
彼とこのまま一緒に住めと。
そこまで早まるんじゃないと。
『……私が一人になりたい時に、あの人に不自由させるようじゃ本末転倒なのだけれど?』
「そゆ時こそ僕の出番でしょ〜?レンレンでもいいし!」
『連勝は生意気だから嫌…こういう所まで話すのは、多分同志にしか無理。私には』
「まあ、珍しいもんねこの手の先祖返りって……ちなみに、中也たんの心読んだ?」
『………待ってるんですって、私が落ち着くの』