第5章 蛋白石の下準備
本当に、無駄にそういうところで気の利いてしまう人。
大人って、凄い…私には無理だ、そんな立ち回り。
私の事、なんでも見透かしたように真っ直ぐこちらを見るんだもの。
読まなくたって分かる、あんな目されたら。
私はそれが、恐ろしい。
「…!戻ってきたみたいだけど?」
『……入れて、いいよ。…風邪引いちゃいけない、から』
中也がインターホンを鳴らす直前に、残夏君が玄関に出る。
その背中に隠れるようにして、貰ったクッションを抱きしめながらついて行った。
「!夏目か。リアは?」
「後ろにいるよ…全部聞いた。中也たんはこれからどうしたいの?」
「…無理矢理は嫌だけど、シークレットサービスは続けたいところだな。このまま俺が手ェ引いたら、青鬼院の野郎と籍入れんだろ?」
建前だ…戯れ言だ、そんなこと考えてなんかないなんてお見通しなんだから。
「本音で言いなよ、僕達二人にはそういうの通用しないよ?」
「本音なぁ?…ちゃんと納得が行く理由が欲しいのが本音だけど、そこまで好きな女怖がらせてまで聞きたくねえよ。それと、交際を控えるまではまあ、押し切られてもいい……ただ、もう関わらないようになんてそんなこと、俺は認めたくはない」
「…だから、シークレットサービスは続けたいんだ?」
「まあな。無理に必要以上に構うなって言うならそうする努力もする。ただ、それでリアに何かあったら…俺は自分で自分を殺すだろうぜ」
……そんなこと言っちゃうなんて、ずるいじゃない。
私に選択権、無いじゃないの。
「あとは学校、ちゃんと行かせてやりてえし?…離れたくねえのが本音だよ」
「だってさ?…リアたん、持っかい聞くけど中也たんと暮らしてあげたらどぉ?少なくとも、このマンション内なら安全でしょ二人共」
残夏君の言葉にハッとする。
そっか、ここなら少なくとも妖怪の脅威からは逃れられるんだ。
異能力者片方のみが相手ならば、恐らくこの人に…加えて妖館のみんながいれば、敵じゃない。
「寧ろここに二人で閉じこもってる方が安全な気さえするけどねぇ…てなわけで、残夏お兄さん的には同棲のままがおすすめかなぁ?それでもいい?」
ゴク、と中也が生唾を飲んだような音が聞こえた。
そうか、彼も怖いんだ。
私がそこまで傷付けた。
貰いたてのそれを、YESの方を向けて残夏君に見せる。
「…OKだって」