第5章 蛋白石の下準備
「リアたーん?…入っていい?」
『…今、入んない方がいいわよ残夏君。私抑え込む気力ないわ』
「視られて心配になるようなもの抱え込んでるわけじゃないの?」
『……中也に、言ったら…殺す、けど』
そうじゃないなら、いい。
私がダメになってしまいそうだ、それだけはいけない。
もしもこれで限界を迎えて、意思が弱くなって彼に助けでも求めてみろ…全てが無駄になる。
施錠もしていなかった扉から、残夏君が入ってくる。
悟りの私と百目の残夏君が視合ってしまうと、お互いの情報量の多さで頭がパンクしてしまうから。
だから、普段は能力をコントロール出来る私がそれを防いでいた。
だが、流石に今は余裕がない。
『わ、たし…中也さんのこと殺したの。…あの人の感情、ズタズタにして殺してきた』
「……これはまた、………えらいもん視ちゃったのね」
『笑う、?…笑うしかないわ、こんなの』
完全変化で直刀を構えていたあたり、その時の私は何かと戦っていたのだろう。
そして中也を殺した刃は、私のそれとは別のもの。
殺されたんだ…私を護ろうとして、きっと。
あの人のことだ、私を殺そうとして誰かに殺されただなんてことはないだろう。
それなら…それならきっと、未来の私はあんなにも泣き叫んでいない。
あんなにも、動かなくなった彼の体を抱きしめてなんかいない。
あんなにも焦がれることなんか、しない。
『……死にたい』
「…死ぬなら、せめて幸せになってからにしてくんない」
『どうやってよ…どうしろってのよ、こんなの』
「君達二人の元に、他の誰かも加わっていればだいぶマシにはなるんじゃないの?いつもそう一人で背負いこむんだから……僕、いい加減君が笑える未来に立ち会いたいんだけど」
何度も生を受けてきた。
生まれる度、やはりそういう運命なのだろう…その時その時の残夏君と出会ってきた。
同じような能力を強く持つことで悩む彼とは直ぐに打ち解けて、今となっては、そういう面では一番の理解者であると言えるだろう。
『………ねえ、いいこと考えた。私が死んでまた生まれ変わったら、来世で中也と幸せになれるかもしれない』
「…馬鹿。分かってんでしょ…中也たんが愛してんのは“君”だってこと」
それに、彼が生きている間に生まれ変わる保証もない。
『ど、しよ…どうしよ残夏君。…た、すけて……ッ』