第5章 蛋白石の下準備
歩きながら、少しずつ離れる距離を取り戻すように小走りになる。
そしてまた歩いて、少し経ってから走って追いついて。
「…お前それしんどくねえか?見てる分には面白いけど」
『だ、だってこれで中也さんスピード落とすのしんど…、いでしょ』
「スピードっつうより歩幅だけどな」
ほれ、そんなとこ歩いてないで横に来な。
手を引かれて強制的にピッタリと横に付けられる。
正確には、ぐらついたせいで彼にぴたりとしがみついてしまったというわけなのだが。
『……、ご、めんなひゃ…ッ』
「緊張しすぎじゃね?」
『…………今度離れたくなくなってきた』
「懐くまでも早いな?」
猫かよ、なんて笑われる。
また笑ってくれた。
『?私狐…ほら、尻尾全然違う』
「子猫っぽい性格してっけどなぁ…まあ狐がこんなもんなのかもしれねえけど」
いや、けど御狐神は犬っぽかった気が…
なんて我に返り始める彼。
…もしやこの人、犬派では?
『……ち、中也さんリアにして欲しいことない!?』
「どうしたよいきなり」
『いいから!!り、リアなんでもできるよ!便利だよ!!奴隷のように便利になるよ!!』
「そこまでいったらアウトなんだよなぁ……何、どうしたほんと」
『中也さんが何も命令してくれないならリアに生きてる価値なんか無「よーし分かった。素直で純粋なリアちゃん?なんでいきなりそんな流れになってる?」中也さん犬派なのかなって』
「安心しろ俺はいつだってお前一筋だから、OK?」
『……ち、ちょっと命令されてみたかったかも』
ここでいきなりM出してくるあたりがドSなんだよなお前。
真顔で言われた。
失礼しちゃう。
「…っていうと?路地裏通りと言えどもこんな屋外で?…恥ずかしいことされてもいいのか?」
『………中也さんがしたいなら、いいよ』
「じゃあキスできる?」
『…できるし』
そっか、そこまで言うんならしてもらおうかな。
なんて、簡単に言ってのけてしまうその人。
私が届くくらいになるまで腰を折ってくれるのだが、目は瞑ってはくれないらしい。
勢いで言ったことを今になって後悔する。
周知が募りすぎて出来やしない。
その上、彼は調子に乗って繋いでいなかった方の手まで…指を絡めて繋いでくれてしまったのだ。
『ひ、っ…ン…』
「…冗談だよ」
内心、安心した自分に驚いた。