第5章 蛋白石の下準備
____何も嫌になんか思わないのに、まだ心配してるのかこいつは。
まだ怖いか…時間もいるわな、そりゃあ。
それにしてもそんなことまで心配してちゃ、何にも俺になんか甘えられなくなっちまうってのに。
もう少し愛情表現してやった方がいいのか?…流石に緊張すっけど____
本当だ、読んでも何にも困らない。
少し、困惑してしまうくらいで…何も怖いことなんてない。
『…中原、さん……潔癖症じゃあ、ない?』
「お前それで俺がここまで毎日お前にベッタリだと思うのか?」
そういうことはなかったらしい。
これで片方の不安要素はなくなった。
あとは…
『じゃ、あ…いいや。……分かった』
「……物分りが良すぎるんじゃねえの?…何か、我慢してないか」
『…手』
手?
返してから、彼は手のひらを上に向けて差し向ける。
言ってくれって、彼が言うなら…言っても多分、大丈夫。
『………握って、い…??』
「…なんだ、そういうことか。…いいよ、お前から…俺の手を望んでくれるんなら、喜んで」
また、困ったように笑って…くしゃくしゃな笑顔で、彼は黒い革手袋を外してくれてしまった。
簡単だった。
言うだけだったのだ。
こんなにも呆気ないものだなんて思わなくて、思わず拍子抜けしてしまうほど。
再び差し出されるのは、彼の素手。
綺麗な指…綺麗な肌。
だけどそれは、しっかりと男の人の手で。
「ん。…いらねえの?お嬢さん」
『……あ、あの。…あ…あ、あり…「礼言ったらお前ここから手だけ握って重力バンジーさせながら帰るぞ?」な、なんで…?』
「礼言うような事じゃねえからだよ。そんなに気にすることじゃねえんだ…お互い好きで恋人してるんだから、触れたくなんのも当然だろ?」
彼の方から、手を取られる。
思わず離しそうになるのを、捕まえていてくれる。
あ、ダメ、逃げちゃいそう。
手握られるとか、全然経験無いのに強請ったから。
___…やべ、こいつやっぱ可愛いわ。
『!!?!?』
「……悪い、お前のこと驚かせるつもりじゃなくてだな。自然の摂理っつうかなんつうか」
『…、て、てて照れすぎなん、ですよ…。ち、中也さん私にそん、な…っ』
「仕方ねえだろ、Sを内包してんだから」
『あ、ぅ……、…い、一応!!本質的、には?初デート……だ、から…』
リード、して…?