第5章 蛋白石の下準備
「流石にそこまで初心な奴に強いるほど俺も鬼じゃないからな……けどごめん、していい?したくなった」
『!…い、いいですよ』
くす、とまた微笑んでから、片手を離して抱き寄せられる。
…ああ、そうか、私これが好きなんだ。
彼に大事にされるのが、それを実感させてもらえるのが好きなんだ。
だから、される方が安心するんだ。
『ん、……ぅ、』
空いている方の手で、彼の服に捕まる。
触れられた唇から、恥ずかしさと熱で溶けてしまいそうだ。
「…こうしてっと色っぽくなってくれちまうから困る」
『へ、…ど、どういう…?』
「すげぇ好きってこと」
再び口付けられるのに、今度こそ目を閉じた。
感触を脳に刻みつけ、身体に覚え込ませるように。
触れて、吸われたり啄まれたりするそれはやはり酷く気持ちよくて…酷く、優しいもの。
『、…っン、!…ッ…ぁ…』
偶に瞼や頬にまで落とされたりなんかして、突然の擽ったさに声が漏れたり大きく身体が跳ねたりする。
なのになんだろ。
やっぱり不思議…この人にされるの、気持ちいい。
他の人から唇に口付けられたことがあるわけではないけれど、それ以外に唇を這わされたことならあった。
こんなにも理性的なものではなかったような気がするが。
…この人のキスは理性的、なのだろうか。
だから、あんな風に怖くならないようになったのだろうか。
ふと、唇からまた離れる彼に、どこか寂しさが募って思わずぇ、と声が零れる。
「…もっと欲しい?」
『……うん』
「じゃああげる…好きなだけ」
『ンン、…ッ……ん、んぅ…♡』
大きなその手で撫でられる頭と狐耳。
しかし私は分かっている、これは撫でているだけじゃない。
逃がしてくれまいとしているのだ、私を。
知ってるもの、散々お預けしてたんだから。
分かってるもの、触れていたんだから。
私多分、このままじゃ溶かされちゃうって。
食べられちゃうって。
ふと、繋いでいた方の手が離れて腰に回される。
すると私が悟る隙もなく、彼は私の尻尾に触れ始めた。
『ん、ん…っ、ひ、ぁ……ひん、…ン…ッ♡』
羞恥と身体に駆け巡る刺激に、キスに集中できなくなる。
どうしよう、これ…何かに目覚めそう。
とんでもなく、たまらなく、気持ちよくなろうとしてる私。
まるで、本当に彼の所有物にでもされてしまったような気分だ。