第5章 蛋白石の下準備
「……あの、また聞こえてないか?リア」
『……』
睫毛ちょっと長いんだ…でも薄めなのね、繊細そう。
しかも澄んでて綺麗な目。
そこから細めに延びた鼻筋に、薄目に見えて実は思ったよりもふっくらしてる唇。
荒れてないのよねぇ、しかもキス上手いし。
…気持ちんだよなぁ、この人とキスするの。
「リア?…おい、リアさん??」
『………かっこぃ、…』
「…あの、聞こえてんすけど」
『…だいたい笑っただけでなんであんな可愛いのよ、理不尽よね全く。いっつもしかめっ面な癖に…身長低いのになんでこんな「誰がチビだ?」ぅえ??』
向かい合った彼の表情が、途端に普段のようにキレ気味になる。
あれ、私何か言ったっけ。
「だ、れ、が、身長低いって??」
『?中也さん??』
「素直かよ」
頭を片手で掴んで力を入れられる。
地味に痛いくらいの強さだ今回は。
『何、何何、ごめんごめんごめん…っ』
「…褒め殺されるよかマシだ。んで?…この店入ってからもう六回目なんすけど」
『えっ、…ぁ………あっ、え、ほ、ほんとに??…ほんとに!?』
「どんだけ上の空なんだよ、お前俺と顔合わせ続けてんのに」
店に入ってから六度目だそうだ。
彼に見惚れて思い耽って、彼のことしか考えられなくなってしまうのが。
『………向かい合って座ってるのが悪いんだと思うのよね…?』
「じゃあ横に来る?」
『か、顔見えなくなるのやだ…っ』
「お前ほんとその可愛さなんで普段から出さねえの???」
彼から不用意に繰り出される可愛い攻撃にはもうそろそろ慣れた。
『は、はははぁ!!?だ、誰が脳筋なんかのこと好きですって!!?』
「言ってねえから落ち着けいい加減」
『別に初デートとか意識してないし!!あってないようなもんだし!?中也さんなんか私の事そこまで意識してないのくらい知ってるし私!!!』
「おい待て、それは訂正しろさすがに……って、お前今もしかして浮かれてんの?」
自分で墓穴を掘ってあぶりだされてしまった所を簡単に突かれてしまった。
…やっば。
『…なんのこと?』
「まあ違うならいいけど」
『…………悪いですか、?』
少し、残念そうな表情をするから。
だから、こっちが素直になるしかなくなるじゃない。
「悪いって…浮かれてんの?」
『…そりゃ、まあ』
浮かれるでしょ、普通。