第5章 蛋白石の下準備
きゅ、と抱き寄せるその人に、少し…色々な感情が交錯しつつドキドキしながら大人しく従う。
「…目ェ離すとすぐああいうのに捕まっちまうだろ?お前可愛らしいんだから、俺から離れるなら携帯で電話でもしてるフリしとけ」
『……ごめんなさい』
「ん。いいよ、お前が悪いわけないんだから…ただの知恵だこれは」
で、どこ行ってたんだよ?
彼に問われて、素直に先程購入したそれの袋を取り出した。
よかった、ぐちゃぐちゃになってなくて。
それを彼の方に差し出す。
「何、だ?それ…」
『…馬鹿な中也さんにプレゼント。あと一日早いけど…お、お誕生日おめ…で、と……ございます』
最後の方は、不慣れだったせいもあってか声が小さくなっていった。
両手で手渡したそれを、ひょい、と呆気なく受け取ってしまわれる。
「誕生日って、いいのにそんな…お前が俺にこんなことしなくたって、俺は『わ、私がしたかったの…っ』…」
私の意思を尊重してくれるらしく、それ以上は問われなかった。
そしてそれを開けて、彼はまた目を見開いた。
「…ピンキーリング?……お前、これ…」
意味わかってるのか?
聞かれる前に、彼の手袋を外して…彼の左手の小指にそれをはめる。
シンプルな、プラチナとピンクゴールドの細での指輪。
意味わかってるの、分かってないの貴方でしょ。
『……い、言っても分かんないって言う、から。…ほ、ほんとはもっと中也さんが欲しいものとか、喜びそうなの贈りたかった、けど……わ、私が分かってほし、くて』
「…いいや、それなら大成功だぜ。何せ馬鹿な俺が一番に欲しかったもんっつったら、リアちゃんからの恋心だからな?」
『、…な、んですかその暴論。…わ、分かった?もう今日暫く言いませんから』
「誕生祝いに恋人に指輪贈るとか、普通男の仕事だろって…ぷっ。…ほんっとかなわねぇ…ほんとお前、男前すぎ…!」
わしゃわしゃと、髪がぐちゃぐちゃになるのに撫でられる。
喜びを全力で噛み締めているのだろう。
初めて見た、彼がこんなに笑ってるの。
私も、中也のこと笑顔にできた。
『ま、まあ?中也さんが馬鹿ですから??』
「うん、すっげぇ馬鹿。…ふは、……ばっかだわ俺…今日このままどっか喫茶店連れ回してもいい?今めちゃくちゃお前と会話したい…もっといっぱい話したい」
『!…いいですよ?』
「っし、!」