第5章 蛋白石の下準備
太宰さんの計らいでその情報屋さんの親友だという国木田さんにお願いし、後日そのデータをいただくことになる。
というのも、本来ならば私が赴くのが筋ではあるが、その情報屋さんは極度の女性に不慣れな性格らしく、まともに仕事ができなくなってしまうらしい。
…変な感覚、自分の家族であるはずの人達のことを調べてるだなんて。
兄妹があるのかさえ、把握していないだなんて。
ただまあ、冷静になって考えてみれば、一つだけ考えられない手がなくもないということに気が付いた。
そう、私が研究を終えてしまえばいいのである。
そもそもの私の研究内容は、先祖返りというシステムをストップさせるためのもの。
今までの自分から、はたまた協力してくれた同じコミュニティの先祖返り達から採取した細胞や血液、遺伝情報など様々なデータから、それぞれの先祖返りに見られる特有のデータが体に発生していることまでは解明できている。
あとは、それを後天的に…そのデータだけを破壊してしまうワクチンを作ってしまうか、そのデータを物理的手法によって除去してしまえば、いいだけなのだ。
今までの私という存在は、決して無駄ではなかった…問題はここからで、どのようにしてそれを成し得るか。
ワクチンの生成法として一つ思い付いたのは、同様のサンプルを異能力者の方から頂いて、更に太宰さんの生体情報から反物質となるデータを取っていくこと。
恐らくそこまではスムーズにことが進む。
そしてその反物質の効力を元にして、先祖返りシステム用のワクチンの参考にできれば、解決の糸口になるかもしれない。
そしてもうひとつは、私が魅せられてしまったあの存在…“アラハバキ”と呼ばれるその荒神の効力を、前世までの私のサンプルに投じてみせるか。
それを達成できるのは、今この時代に生を受けている私なのだが。
前者は、成功するかはともかくとしてリスクも無くスムーズに事が運ぶだろう。
しかし、後者ともなれば…
「にしてもよく寝てたなぁ…そんなに寝てる内に、俺の事忘れたとか言わねえでくれよ?」
『何馬鹿なこと言ってんですか、殺しますよ』
「ははっ、その調子なら大丈夫そうだ」
彼が、断固として拒否するだろう。
制御装置を自称するだけある。
ちょっと調べたいだけなんだけどな。
『中也さん』
「ん?何だ?」
『…やっぱ何でも』
言えないよなぁ…