第5章 蛋白石の下準備
「…お前、自分の家族に世継ぎが生まれたら殺す覚悟はあるのか」
『……私に害のなかった人間になら、無いのが本音』
馬鹿だよなぁ、なんていじるように、私を撫でて言う。
私の想いは伝わっていたらしく、先程の発言も訂正された。
「一度、今の白波家を調べてみないか?…お前以外に子供がいないなら、問題ないわけだろ?」
『……どうやって、調べるのよ』
「これはさっき太宰から聞いた話だ。情報漏洩に繋がるような内容であるから無闇に使いたくはない話だろうが…探偵社に一人、腕利きの情報屋がいるらしい。そいつを訪ねて調べてもらって…お前の能力で真偽を確かめる」
どうだ、それなら信用できそうじゃあないか。
提案には、大いに賛成だ。
しかし、問題はそこじゃない。
『私、罪もないような人の命摘み取ってまで生きたくない』
「…それなら、また他の手を考えりゃいいさ。俺はお前の犬だし?主人の意志に背くようなことは死んでもしねえって決めてんだ」
『あ、っそ。…そっか、…そ、か…』
好き。
この人が好き。
大好き。
狂おしい程に、死にそうな程に。
愛しているのだ、愛してしまっていたのだ。
気付くのが遅すぎたくらいには、以前から。
愛おしすぎて壊れそう。
どう言葉にすればいいのか分からない、こんな醜い気持ち。
恋って、こんなに暴力的で…こんなにも、欲望に満ちた感情だったのね。
「あと、婚約者の話だけど…俺の我儘押し付けても、いい?」
『…、…私、強引な人の方が好きよ。…男らしくて、逞しい人』
「!そ、うだったっけ。…かなわねえな」
俺のところに、いてくんね…?お願い、リアと離れるとか俺死んじまう。
彼の方から、こんな甘え方をされたのは初めてだった気がする。
二つ返事で、うん、と返す。
『いいよ。…いい、よ……ありがと。…決めて、くれてありがとう…、あり、がと…っ』
気付いてくれていた、私が自分で選べない性格になってしまうほどには、あまりにも人生というものを拗らせすぎた人間だということを。
一人じゃ何も、できないことを。
望まれなければ、考えられなくなってしまうということを。
「ごめん、な…ごめん。…家族、なら……俺と、なって欲しくて…ッ、ほんとは渡したくねえんだ、これっぽっちも」
『…プロポーズですかそれ』
「……いつ、言うかな」
『楽しみに、してる』