第5章 蛋白石の下準備
〜妖館〜
『…、……あ、れ…?』
目が覚めたのは自分の部屋。
そして、私が落ち着いて眠れるようにか、あたたかい手のひらがお腹の上をトントンと優しく撫でていた。
「…目、覚めたか?…どこか痛いところは?気分悪いとか、何でも…教えて」
『………気分なんか、最悪よ。…気付きたくないことに気付いたんだもの…気付く前に戻りたいくらいだわ』
八つ当たりをするように、声を低くして言う。
…もしもあの時、私がこの人の封じ込める“あれ”に消されていたら、概念ごと消えてしまえていたのだろうか。
どんな死に方をすれば、私はもう生まれなくてすむようになるのだろうか。
答えは一つ、明確なものがある。
子孫を一切絶ってしまうということだ。
白波家から生まれる世継ぎを取り払ってしまえば、白波海音と名付けられるあの家の先祖返りは存在し得なくなるのだから。
そうするためには、私の血縁者…ひいては実の親や兄妹達がいれば、その子供を絶っていけば。
なんて考えに至ってしまうものだから、私もつくづくあの家の人間なのだと思う。
気持ち悪…。
『…なん、で…?……なんで、私中也さんじゃないとダメなの…??』
「…」
『他にも、いっぱい探せばいるじゃない…先祖返りの中にもいるわよ、まともな男の人なんていっぱい。……なんで、中也さ…っ、こんなの酷いじゃない、私……ッ、転生したら、今度はもう中也さんに逢えないじゃない…ッッ!!』
私の必死の叫びに、返せる言葉を軽率に思い付くほど、彼は無責任な人ではない。
だからこそ好きになった…気付かされた。
けど、こんなことって。
私を抱きしめるその腕が、力強いのに酷く震えている。
言葉にされるより、よっぽど伝わる。
「…なあ、リア。俺は…確かに先祖返りじゃないけど、その実人間という存在でもない」
『……だから、何』
「下手な嘘は思いつかねえし、確証のないことは言えないけど…恐らく俺という存在に寿命は無い。あいつの安全装置である器がその天命をまっとうしようと、次の器に継承される…そうすりゃ、『それは中原中也じゃあないわ』…、…俺の器に寿命があるとも、限らない」
『関係、ないのよ…一緒に歳とって、一緒に生きて死にたい、の。…器が変わったらまた同じ存在ですって、?ふざけたこと言わないで……っ、私が好きになった人がッ!!そんな、…そんな悲しい事…』