第5章 蛋白石の下準備
「ただ、籍の問題以前に僕には君を任せる相手を見極める権利くらいあると思ってね。下手な相手に任せて…泣かせるくらいならって思っただけだよ」
『……ごめ、ん…マーク君。…ごめん、なさい…ご、めん…』
「…相変わらずじゃない、謝り癖。まだ治んない?…どうしたの、リアのせいじゃあないでしょう?」
『だ、って…わ、私また……っ、私の…、』
なんて、言ったらいいんだろう。
確かに、私のせいだと言うにはあまりにもあちらの独善的過ぎる意見になってしまうのは確かなのだ。
しかし、普通の家庭では…普通の生活でそんなことは、ありえないこと。
私の…あの家だからこその、この仕打ち。
いや、もっと言ってしまえば私が襲われさえしなければ。
私のせいで殺したようなものだ、そんなの…間接的と言うにはあまりにも誇大だが、関係が無いわけじゃあない。
「じゃ、謝んないで?僕リアのこといじめに来たわけじゃないし…安心出来たら、諦めるから」
諦めるって、それは独りに戻りに行くということで。
私が行けば、彼は少しくらい救われる?
報われる…?
そんな私の考えを見透かしたようにして、やはり彼は困ったような顔をしてしまう。
「……お人好しが過ぎるよ。罪悪感でだけは行動しないって約束して?」
小指を出される。
ああ、これ私が教えたやつだっけ。
それに向かわせるように小指を立てて、しかし触れられないでいれば、彼の方から絡められた。
「はい、約束!いいね?まあ彼氏さんには色々とお聞きしたいところがあるわけだけれど……君、覚悟ある?この子の本家の人間って、冗談抜きでそういうことが出来る人間の集まりだよ」
中也の方を向いて問うその声は真剣なもの。
私の頭を撫でながら、彼は中也の人を探る。
「…そこまでのもんだと知ったのは初めてだ」
「……怖くなったならやめておきなよ?それに…自分が殺られる恐れがあるなら、絶対にそれ以上この子に関わらないでくれ」
本家の人間が私や、私を匿う形で世話を見ている青鬼院家に手が出せないのは体裁の問題だ。
そこの死が露見すれば、あまりにもふりかかるリスクが大きすぎる。
しかし、それほど関係の無い相手ともなってしまえば邪魔なだけ。
「…言ってろ、サンピン野郎。俺を誰だと思ってやがる」
「へえ、そこの心配はないんだ?…それなら暫くは様子見かな」