第5章 蛋白石の下準備
ぽつりと零された声はかなりの正論で、太宰さんにおいては有り得ないような事態が今ここに起きていることを物語っている。
「リアちゃんに関して言えば別案件だよ。折角楽しく女の子やってるのに、私がそれを潰すわけにはいかないからね」
「心中してくれそうな世にも珍しい美女だけど?それもあんたの好きそうな」
「ダメなんですよ…私が死んだら、本当にこの子なら後を追って来かねない」
『…そのくせ自殺ばっかりしてるからほんとに死ねばいいと思う』
「痛くないやつなら喜んで♡」
まあ、よく分かって下さっていることで。
変わらぬ懐の広さにまた安堵する。
私は知っている。
こういうものを、依存と呼ぶということを。
状況はとてもと呼べるほどに酷いものではあったけれど、その実彼は出逢ったその日、私に許しを与えてくれたのだ。
彼に依存するという許しを…生きるために使ってもいいという、そんな軽薄で、しかしどうしてか脆くないそんな許しを。
『…右頬殴られたんでしょ。それにその前には刺されてるし…ここ数日の分なら背中やられかけてる。相手、誰?』
「言ったら殺そうとするでしょ、だァめ」
『リアには教えてくれないの…?』
「…そうだねぇ、私の大切な人達だから、殺さないでほしい」
『……怪我ばっか、増やしてるの嫌』
よしよし、と言い聞かせるように…はたまた困ったなと言うように微笑んで、私の頭を何度もポンポン、と優しく撫でる。
この撫で方、好き…大好き。
「え、ええっと…お二人はどういう関係で??」
「ん?気になるのかい敦君?…そうだねえ、一言で言えば、この子は私の大切な女の子だ」
ええええっっ!!?と顔を真っ赤にする中島さん達。
しかし、私の方はそうではない…少し違うのだ、好きの…大切の種類が。
『…私の恩人』
「…!!も、もしかして言ってた人?探偵社に恩人がいるって」
谷崎さんの言葉にコク、と頷いた。
「おや、まだそんな…そんなに気にしなくていいよって言ってるのに?」
『太宰さんは私の事、ちゃんと女の子にしてくれたでしょ』
「「「……えっと、」」」
「まあ、そりゃあね?あのまま放っておくわけにもいかなかったし」
「「「どういう関係!!?」」」
『…救世主的な?』
「言い過ぎだってば…お互い様でしょ」
『……人がいいのよね太宰さんて』
馬鹿みたい…