第5章 蛋白石の下準備
『何の用って…警戒されちゃってます?賢明ですね』
「警戒と言うよりはただの疑問に近い。貴君が今、どのような立場にあるのかは流石に知り得ているからな」
どうして、ポートマフィアの準幹部にまでなっている?
福沢さんの一言に、それを知らなかった人達からの視線が刺さる。
まあ、計画通り…ここからどうなるか。
殺されることや尋問されるようなことは無いだろう、それなりの事はしてきたのだから。
『なんでかなぁ。…会いたい人が、いたから』
「…会いたい人?」
『うん。その人、一人で放っておくとすぐ無茶するし…すぐ自分の事、愛せなくなっちゃう人だから』
誰かが一緒にいなくちゃいけないの。
自分のことを考える暇もないくらいに振り回しちゃうような相手と、一緒にいないと。
最初は勿論、接触するつもりでいても中々行動に移せなかったのだけれど…私が本当に無意識だったタイミングで、彼はまた私を救ってくれてしまったから。
それなら、やっぱりこの人に捧げようって。
自分の全部、あなたの為なら使いたいって、思えたから。
「まあ、あんまり彼女の事は責めないでやってくださいよ。見ての通り可愛らしい子でしょう?」
「…僕と敦君も、組合の構成員と交戦した時に助けられてますし、少なくとも今は…友好的と捉えていいんじゃないかな、と」
『さすが谷崎さんっ、大好き!♪』
「ぶ、!!?」
「兄様!!?」
何故か鼻血を出して卒倒してしまった。
あれ、そんなキャラの人だっけこの人。
まあ好きだけれど。
「この子に関しては、安全性は私が保証します。少なくとも私の不利になるような事はこの子は絶対にしたがりませんし…昨日だってそれでポートマフィアの首領に噛み付いてお灸食らわせられた挙句に、意思を捻じ曲げずに要望を通した子ですからね」
ドク、と嫌な動悸がする。
『…そういう話はお嫌いかしら』
「ごめんね、でも事実でしょう?…怖かったらこっちおいで」
ゆっくりと抱きつきに行けば、するりと背中に手を回して抱きとめられる。
…この人のにおいは変わんない。
落ち着く…驚くくらいに、ここにいるのが元々自然だったのではないかと錯覚してしまうほどに。
「お灸って、こんな女の子に…?」
『まあ、首領からの直接の命令に逆らいましたから…というか、拒否しましたからね』
「命令拒否って、なんでまた…」