第2章 桜の前
『連勝、私また振られたから今日連勝がご飯作って。じゃないと私食べない』
「リアちゃんそれ本気で言ってる?俺料理そんなに得意ってわけでもないんだけど」
『だってカルタに頼むと全部食べられるし、野ばら姐さんはあれだし…』
「……ねー、中原さん料理できない?一人暮らししてるんなら出来そうじゃん」
「ほほう、ポートマフィアの中原中也か…これはまた素晴らしい奴隷が増えたものだ。リア、その男にシークレットサービスの契約を迫られたのだろう?よいではないか、契約すれば」
並の先祖返りよりはよっぽど戦闘向きだぞその男は。
なんて、どこから入手したのか分からない情報を与えられる。
『契約したって変わらないわよ、すぐ嫌になるか死ぬか、裏切るかの三択でしょう?私のシークレットサービスが夢物語のような存在だって、一番に知ってるのはカゲ様なのに?』
「その男ならいいのではないかと、今回は私のお墨付きだぞ?」
今回は。
そう、そういえばこの人から推薦されたシークレットサービス希望者なんて、初めてね。
なんて、何ちょっと心がぐらついてるのかしら私。
『…もしダメだったらどう責任とってくれるの?』
「その時は私がお前を嫁として迎え入れようじゃあないか」
目をぱちくりさせて、頭の中でその言葉を反復する。
『……言ったわよ?ちゃんと聞いたからね??』
「ふふ、Sに二言はないぞ!」
『いいわ、そういうことなら契約する。早く私から逃げ出してね中原さん、それなら私、逃げられても裏切られても幸せだわ』
「…えっ、リアちゃん契約すんの?やったじゃん、シークレットサービス出来たねぇ」
「何かえらくダシに使われた気がするのは気のせいか?おい……契約書は?」
『やけに乗り気なのねほんと…後であゆむさんにでももらいに行くわ。とりあえずそういうわけだから、とっとと消えてね中原さん』
ぴき、と青筋を浮かび上がらせ、ぴくぴくと口角を引き攣らせながら笑い始めるその人。
「上等だこら…見とけよ手前、その生意気な口大人しくさせてやるよ」
『こき使ってあげるわよ』
まさか、上司が自分のシークレットサービスになるなんてね。
これじゃあどっちの立場が上かわかったもんじゃないわ。
…散々なこと言ったのに、まだ私の事嫌にならないなんて、変わった人。
少しだけ好感を持てただなんて、誰にも教えない。