第2章 桜の前
帰ってくる。
カゲ様が帰ってくる。
私の目の前が、この一言でどれだけ明るくなっただろう。
『ほんと…?ほんとにほんと??』
「ああ、本当だ。土産は何がいい?」
『カゲ様との婚姻届』
「「ブッ、!!!!」」
連勝と帽子置き場さんの吹き出す声が聞こえた。
…どうでもいいけれど。
「毎回頼まれている気もするが…私は婚約者を作るつもりはないぞ?」
『…許嫁がいるから?』
「いや、許嫁殿は言ってもただの許嫁だ。それにあいつは、恐らく私以外にとっくにそういう相手がいる」
『カゲ様私の事嫌い?』
勿論性的な意味で。
付け足した言葉に連勝は頭を抱えているようだった。
「ほほう、よからぬ影響を受けているようだな……リア、分かるだろう。お前が私を好いているのは…」
『…いらないもの。私カゲ様が欲しい…それ以外望まない、殺されたっていいの。ちょうだい…?…恋人なんて夢みたいなもの、望まないから』
「…残念だが聞いてやれん。私はお前を嫁に迎え入れるならば、それなりに大事にしてやりたいからな?ちなみに性的な意味でならば私はお前の事が大好きだぞ」
『他の人にファーストキス盗られたけど、まだ同じこと言える?』
「それで自害でもされると嫌だからと今こうして連絡をとっているわけなのだが??」
読まれてたんだ。
なんだ、知ってたのねやっぱり。
『私の事嫌いにならないの?』
「ああ、ならない。何故なら私はSだからな…ククク、私を思って苦しむお前を見たところで、余計に放っておけなくなるだけだ。どれ、今は沖縄にいるんだが、ちんすこうあたりでも差し入れようか?」
『……あとサーターアンダギー。それから生ウニ』
「な、生ウニだと…ッ、中々な無茶を言ってくれる。その挑戦受けて立とうではないか!!」
『冷凍でもしようものなら籍入れてもらうから。あー、あと私河豚も食べたいなぁ』
「さ、流石はリア、なかなかのSっぷりを……っ、…が、ガンバリマァス」
カゲ様…青鬼院蜻蛉は、知っている。
私が自身に向けているその感情が、恋ではなく愛だということを。
そしてそれは、依存に近い家族愛であるということを。
私はちゃんと分かっている…青鬼院蜻蛉その人が向ける私への感情が、家族愛ではなく恋心であるということを。
だからこそ、私を妖怪の溢れる地へ連れ回せないのだということを。