第2章 桜の前
「さてさて、契約すんなら、デートの続きしておいでお二人さん。俺もそろそろ凜々蝶とミケの事連れ出さなきゃだし」
『…もしかしてこっちにも?…ええ、嘘』
「当たり前でしょ?シークレットサービスっつったらこのままこれから住み込みになるんだしさ。お前のパートナーなんだから」
『わ、私のパートナーって……ふ、ふん、そうね、仕方がないからカゲ様と籍入れるためにダシにしてやったんだったわ。…仕方ない、から…パートナー、なら……仕方ない、から』
青鬼院蜻蛉とかいう変態野郎だと想定される輩と電話を切ったかと思いきや、突如として何故か照れ始めるそいつ。
なんだよ、散々人に死ねだの消えろだの言っておきながらえらく嬉しそうじゃねえか。
全然隠せてねぇし。
「…仕方ないから何だよ?」
『!!つ、連れ回してこき使ってやるっつってんの!い、いいからその…っ、ふ、服選びとか付き合いなさいよ、もっかい出かける前に』
「ふ、服?さっきのじゃダメなのか?」
『何、何か文句あるわけ?私の専属シークレットサービスなのに??』
「……しゃーねぇな、選んでやるよ。だからせめてその…先に下着着てきてくんね??部屋入り辛ぇわ」
ふてぶてしい言い草。
なのに彼女は俺の言葉に大人しくなって、何故だか声高になってまた言い返す。
『い、言ったからね!?言ったんだからね!!?…う、動いちゃダメよ?いきなりいなくなっててそういうドッキリとか、そういうの全然いらな「とっとと着てこいや風邪ひくだろが!!!?」!!は、…は、い…』
妙に、素直な返事が聞こえた。
何故かは分からないが…言い方はあんな風なのに、嬉しいのは嬉しいらしい。
静かに部屋に入った少女は、そのまま着替えをしているのだろう。
「うんうん、中原さんもえらくリアちゃんに気に入られたもんだねぇ…人見知りすごいし引っ込み思案なあの子があんな……お兄さん感動しちゃう」
「えっ、あれ気に入られてんのか?…人見知りすごい引っ込み思案…?」
「そりゃそうよ、大変なんだからね?ただでさえ人の心の声が聴こえちゃうような子だし」
サラリと、重大なことを言われたような気がした…いや、言われた。
「あ?人の心の声…って………あいつが?すごくね?それ」
「そうなのよ、だから中々理解してくれる相手探すのにも疲れ果てちゃっ………えっ、感想それ?中原さん」