第2章 桜の前
「手ン前ぇ……っ、今日という今日は死なす!!絶対ぇ死なす!!!」
『それ毎日聞いてる気がするんだけど楽しい?そんなにハマっちゃう?癖になった??』
おちょくられるのが。
この一言で、この男…もとい、この低身長の帽子置き場は憤怒する。
ああ面白い、ちっこいのが余計にちっこく見えるや。
「新入りのくせして突然幹部候補だとか首領が紹介してきたかと思えば、とんだ小生意気なクソ餓鬼じゃねぇか…おい、とっとと弁明しやがれ。どうしてさっきの任務、半分寝てた挙句に最後俺を盾にしやがった?」
『え……だって私か弱い乙女だし?』
「か弱い乙女が!!なんで俺の攻撃速度に反応して!!?全部避けれんだよ!!!」
『女の子は捕まえられそうになると逃げたくなっちゃうものなのよ』
拳を避けるのも、この人が相手にもなれば集中力が必要だ。
しかしそれを悟られまいと、なめた口調と笑顔で返す。
私は、別にこの人こと、中原中也の事が特段嫌いというわけでもないのである。
それどころか大好きなのだ。
『ほんっと面白い、最っ高に大好きよその表情』
「玩具にして楽しんでるだけだろうが手前は!!!?何回も聞いたぞその紛らわしい台詞!!!」
『えっ、正解!よく分かったね脳筋なのに、すごいすごい!!』
片手間に書類を作れば、それをまとめて最小幹部様に投げつける。
『はい報告書!お仕事終わりでいい??』
「まずその口の利き方から直『終わりでいい?』……不備がないか確認してからな。執務室戻んぞ」
着いてこい、と言わんばかりの勢いで踵を返した彼に着いていくことはせず、『は~い』と軽い声で返事をする。
そして私に対して日頃の愚痴を垂れてるその間に、とっとと私はエレベーターに乗り込んで下の階へと降りていく。
不備がないことが分かってるのに、残業なんてごめんだわ。
私はとっとと寝たいんだから。
夜はこれから、長いのだから。
エントランスから出て、そこに吹かれてきた黒い布。
それは意思を持ってこちらに寄ってくる。
『あんた、また来たの?危ないって言ってるでしょ…武器持った戦闘専門の人間も、“妖”も敵になったらどうするのよ』
「お前こそ人の事言えないだろ?早く帰るぞ、もう新しい入居者来てるから」
『…疲れた。ちょっと寝かせて』
黒い布…黒色の一反木綿の体に乗って、ようやく私は眠りにつける。