第1章 いつかの二人
今年も桜咲くこの季節、いつもの場所に訪れた。
『今日は葡萄酒じゃないからって文句言うんじゃないわよ』
せっかくの季節なんだ、趣に興じたっていいだろう。
まあ、私が何を言ったところで、この人は聞いてはくれないのだろうけれど。
近く感じられるこの場所で、不似合いにも葡萄酒のグラスに、今日は透明な日本酒を注いでやる。
特に何を話すでもなくそれを飲んで…最後にそいつのグラスに残った酒を、思いっきりかけてやった。
『そう怒んないでよ、いつもの事でしょ』
立ち上がって、今日は枝付きで仕入れてきた桜を渡し、張り合いがないぞと一言。
それから思いっきり笑ってやる。
「おー、やっぱりここにいたか。花見行くぞ~」
『あら、私今折角久しぶりに喧嘩してたのに』
「久しぶり?一昨日したばっかじゃなかったか?」
『また見てたんでしょ…連勝の覗き魔』
「言いがかり言いがかり。俺すっごい悪い感じに聞こえるじゃんそれ……青鬼院のとこのが煩いから早く来てくんない?」
ああ、またか。
“いつ”になっても騒がしい奴だ、そんなに私に罵倒されたいかね。
桜を贈られたそいつの方を一瞬振り向いて、それから小さく、しかしハッキリと、私は言う。
『…そんなだからいつまで経っても身長伸びないのよ、ばぁ~か』
突如として吹いてきた荒い風。
あーあー、ほんっと器の小さい男ねぇ。
『怒んないの、事実なんだから………また来るわ、精々それまで待ってる事ね。まあ来ない方が清々してるでしょうから、嫌がらせついでに定期的にまた来てあげるわよ』
楽しみにしてなさい、なんて言えば、「相っ変わらずあたりきついのね」なんて突っ込まれる。
こいつには…私達には、これくらいが丁度いいのよ。
そしてまた吹き荒れる強い風。
それに目をつぶって、止むのを待つ。
すると頭に軽めの衝撃。
予期せぬそれに、思わず痛っ、と声を漏らす。
何かと思ってあたりを見ると、頭に何か乗っていた……桜の花のついた枝だ。
…ああ、ほんと、これだから馬鹿は。
『……今日夜まで付き合ってね』
「お前飲みすぎるとキャラ変わるからやだ」
『いいでしょ、花見ついでよ』
「はいはい、あいつらに会うまでにその涙声抑えなさい」
『はっ、誰が』
「お前だよ」
____Gone but Not Forgotten…“Chuya”