第2章 桜の前
「手前ほんっとに…あ、朝っぱらから発言がアウトだぞ…!!?なんかこう、色々と…いいのかよ女子高生がそれで!!!」
『アウトって言われてもほら、だってお土産用だしいいかなって
』
「土産でなんで鞭と荒縄なんだよ!!どこの変態だンなもん欲しがんのは!!?誰の入れ知恵だそれ、そいつ連れてこい一発殴らせろ!!」
『…あ、欲しかった?それなら二つずつ仕入れよっか』
そうじゃねぇだろ…っ、というような葛藤を抑えきれずに手を胸の前でもやもやさせるその人。
絵面だけ見てると中々な変質者だ、あー面白。
『もしかして高温蝋燭の方がよかった??』
「いらねぇよ、誰に使うんだよ!!!」
『あーそっか、そういう相手いなさそうだもんね。ごめんごめん、落ち込まないで』
「逆に手前にいるのかよ!?」
『…いないって言えば嘘になるけど、いるって言うには若干ニュアンスが違うような……なんて言うんだろ。まあ、私はさほど必要とされてないだろうから、そんな相手はいないって言う方が正解なのかもね』
ピタリと勢いの止む彼から視線を逸らすように目をつぶる。
あーやだやだ、地雷だわこういう話。
思い起こせば一目瞭然。
私には唯一絶対と呼べるようなパートナーが存在しない。
私には…私を一番に必要としてくれる人が、いない。
まあ、私の厄介さを知った上で想ってくれるような人、夢のような存在なのだろう。
『……まあとにかく、私なんかのシークレットサービスにはさせてやらないから安心して。同意するつもり無いし、したって寿命縮めちゃうだけだから』
「…信用ならねぇか、俺が」
『そういう問題じゃないの。いいから、これ以上こっち側の世界に足踏み入れるのは避け____』
うるせぇよ、なんて聞こえたような聞こえなかったような。
それ以上何も、紡げなかった。
人目があるこんな所で…今この人、何した?
今、私何された??
「…次またうだうだ言ってっと塞ぐからな、覚えとけよ」
『……最低。…死ね…ッ』
「あ?…おい!!?」
初めて、だった。
あんな距離に近づかれたの…あんな感触、感じたの。
走って、逃げて逃げて、妖館の自室に入って布団にこもる。
ああ、なんで気を抜いてたんだ私は…なんで、あんなに呆気なく盗られてしまったんだ。
叶わないなら、せめて想うことくらいはって。
それくらいはって…