第2章 桜の前
結論から言うと、アイスは結局食べきれずにほんの少しだけ中原さんに食べていただくことになった。
贅沢な話だ、こんなアイスをたらふく食べさせられるだなんてこと。
「食べ終わったところで質問していいか?」
『…何』
「お前、なんで学生の身なのにダブルワークまでしてんだ?聞いたぞ、反ノ塚のシークレットサービスも担ってるって」
『あいつが一番、純血の妖怪に狙われると危ないからよ。野ばら姐さんがいないところで一人じゃ危ないし』
半ばヤケでお願いしたようなものだったけれど。
まあ、恐らく見ていられなくて了承するしかなかったんだろうな。
「へえ、仲間思いなこったな。…マフィアには、何故?」
『森さんがいい人だから』
給料良いみたいだったし。
私が妖館にいられるのも、ある人のおかげ。
実家と半分縁を切った状態の私の生活を保証してくれる人がいるから。
…歳も歳だし、せめて学費や雑費くらいは自分で持ちたいじゃない、なんて。
「あの人、容赦なく人を殺せるぜ?」
『知ってるよ、昔ちょっとお世話になってたし』
「は?…え、どういうことだ?」
『元々勧誘の話はあったってこと』
所謂街中スカウトといったところだろうか…そんなに穏やかな話ではなかったけれど。
私に嘘が通じないことも、とっくの前から知られているし。
寧ろその力を貸してほしいとせがまれていた程だ。
どこぞの馬鹿な人によって阻止されたわけだけど。
『それにお金は持ってて困ることないし。ポートマフィアの人には助けられたことあるし』
「うちの構成員がか?とんだ物好きだなそいつぁ」
『どこぞのちっちゃい幹部さんみたいにね?』
「アイスのお代わりをご希望かクソ餓鬼」
流石にいらないからシカトした。
「んで、お前今日どこほっつき歩くつもりだったんだよ」
『…別にどこでも良くない?』
「連れてけっつってんだ阿呆。オフだろが今日」
きょとんとさせられた。
当然のように言ってのけたその人は、最初からそのつもりだったかのような言いぶりであるし。
アイス、食べきれなかったのに。
『……鞭と荒縄買おうかなって』
「ッッッ、!!!?!?、ッゲホ、ゲホッ…!!!」
飲んでいた珈琲を変なところに飲んでしまったのだろうか。
死にそうな勢いでむせ返って、その人はいいリアクションをしてくれた。