第2章 桜の前
「そもそもな、手前まだ高校入学前の学生だろ?なんでそんな奴がマフィアに加入すんだよ、身体ぶっ壊すぞ」
『…面白い幹部さんいじりたくてつい』
「それは誰のことだ?」
頭を掴まれれば力を込められる。
馬鹿みたいな握力だ、やばいやばい。
『痛…、た、いたッ…痛いって!!!』
「反省って言葉を覚えろ」
『悪いことしてないもん私』
「俺への所行に対する見解がそれか、ええ??」
『あ……、え、なにかしたっけ?』
一瞬暗くなりかけたのを誤魔化すように茶化してみる。
すると面白いくらいにこいつマジか、と言ったような目線を投げてくるものだから、楽しいことこの上ない。
…そうか、これは冗談というやつか。
____素でこれなのかこいつは…
いや、本音だった。
少し頭を悩ませているのは本気でらしい。
まあ、それで呆れてシークレットサービスを解消するならその方がいいだろう。
少し寂しくなってしまう気がしないでもないが、その方がよっぽどこの人のためだ。
少し…かなり、嬉しい申し出をされてしまったのは私だけの秘密なのだけれども。
『あ、ねえねえ私の従僕さん。アイス買って』
「妙に素直じゃねぇか…いいよ、どこのだ」
『そうねぇ、じゃああそこの地下のやつ』
指さしたのは百貨店。
何を隠そう、世間一般的にお高めの、そういう世界的なブランドを取り扱っている店を指しているのだ。
気持ちの悪い胸を落ち着かせるために、からかってやろうなんて考えて。
しかし彼は、どうしてか今日は私の予想を裏切るような動きばかりをする。
「おー、好きなだけ選べ」
『……何、気持ち悪い』
「は?手前から言い始めて何言ってんだよ。種類選ばねぇならショーケースの端から端まで全部買って食わせんぞ」
『じゃあそれで』
「言ったな?残すなよ」
まただ。
無茶なこと言えば諦めるって、怒るって思ったのに。
本当に、この人は…
「全部で十六種類な……残したら今日一日俺に付き合わせる」
『言っとくけど私、甘いもの食べるのは得意で「じゃあ安心だ、全部キングサイズでオーダーすっからがんばってくれよ」え…いや、さすがにそれは金銭的にアウトなんじゃ…』
「いいから。幹部なめんな」
契約外の…それこそ、パワハラのようなお願いだったのに。
ますますわけがわからない。
この人のことが、わからない。