第2章 桜の前
「いざって時に連絡取れるようにしておけよ。例えば俺の車が爆破でもされりゃ真っ先にお前の事疑ってやるから、ちゃんと応答するように」
『爆破されたことあるんですか…』
「ある」
『例えになってないじゃない』
マフィアの幹部ってそんな感じなのかしら。
手に持っている画面を見つめて、なんの前触れもなくそれを押す。
すると隣からバイブ音が聞こえ、それが止むと、隣の人が声を発する。
「なんだよ」
その声が、二重になるように私の携帯端末からも発せられた。
そんな事に、またなんだか胸がおかしくなる。
『……横、行きたい』
「…どうぞ?」
彼の背中側でそう言えば、私が動く前に彼の方が隣に来る。
ああ、ダメだ、持っていかれそう。
私、なんだかおかしいみたい…携帯もらえたとかそういうのよりも、私の声を聞いてもらえたことのほうが。
私のこと、受け入れてもらえたような気がして。
あまりにも心臓が持たなくなって、通話を切る。
「何、いきなり切って。もう終わんの?」
『…横にいるのに電話とる必要ありますか』
「かけてきた奴が言うんじゃねえよ」
口も悪ければ乱暴で、デリカシーも無いし喧嘩早いし怒りっぽいのに。
『…!え、…あ、ちょ…』
突然、かかってきた電話。
あれ、何、なんで今度はかかってきて…
慌ててそれを取るボタンを探して画面を押せば、繋がる。
「よォ、これで相子だろ」
『な、にを…』
彼の方を振り向いて、今度こそ一言くらい文句を言ってやろうって。
むず痒いのを誤魔化すように、茶化していじってやろうって、そう思ったのに。
「いや、昨日言ってた話ってやつ。首領から勧められた話があったんだが……俺の独断行動だ、少し変える。お前、今日から俺の主になれ」
『は…、?』
「俺が手前のシークレットサービスしてやるよ。手前からの報酬は、俺からの連絡に必ず出ること。そして勝手にどこかに放浪したりしないこと…それでいい」
『いや、何が何だかさっぱり…シークレットサービスって、私の相手は純血の妖怪で「お前は俺をただの人間だって言うがな、異能力なめんなよ。こちとら十四年もバケモンやっちゃいないんだよ」!!!…な、にが……目的で…』
「…幹部命令な、これ」
パワハラ上司は、これだから。
___俺が護ってやりゃ、そんな辛気臭い顔ばっかさせずに済むんじゃねえの