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glorious time

第2章 桜の前


何故か無理矢理ご飯を食べさせられて、そのまま首根っこを掴むような感覚で服を引っ張って連れ出された。

『ちょ、っ…待って、なんであんたが連れ出して…ッ』

「へいへい、口の利き方がなってねぇ奴の言うことは聞きやせん」

何そんな今更なこと言ってんのこの人、そんな今更なこと。
別に私はこの人の事馬鹿にしてるとかそういうあれじゃなくて…単にまっすぐ見られるのが怖いから、そういう風に扱ってるだけで。

知られたら、多分また私の事…

なんて考えたところでそれをやめる。
森さんは私のことを知っていた…それでもいいと言ってくれた。

必要としてくれて、更には私を守ってくれるとまで言ってくれた。
そんな口約束、なんて思うかもしれないけれど、私に口約束は通用しない。

本当に携帯ショップまで連れていかれて、何かと思えば選べ、なんて言われて。

『いやいや、選べって言われても、私別に携帯にこだわりとかないし…』

「じゃあ一番高ぇの買うからな」

『あ、じゃあそれで』

「分かった」

今度はこちらが拍子抜けさせられる番だった。
あれ、まって、この人なんでそんなにサラッと受け入れるわけ?

まってまって、なんでその一番高いであろう携帯をこの人が手に取ってるわけ?

『ま、まって…!!?な、なにして「買うんだよ」はぁ、!!?なんでそんなッ』

「俺が不便だっつっただろが。ただし俺の名義で契約すっから、下手に壊したりわざと捨てたりするんじゃねぇぞこの未成年野郎」

開いた口が塞がらないとは、正しくこのことなのだろう。
その人は本当によく分からない契約書にサインして、よく分からないカードでよく分からないプランで携帯を購入してしまったのだ。

「ほれ、お前の」

手渡された袋。
味気も何もない渡し方をされたそれに、胸が締め付けられる。

何、なんで私に物なんか与えるの。
意味わかんない。

いつまで経っても開けようとしない私にイライラしたのか、勝手に箱を開けて遂には携帯の電源を入れられる。
モバイルバッテリーで充電されれば、慣れたように初期設定が進められていく。

そしてそれを渡されれば…開かれていたのは連絡先。
そこに、中原中也の文字。

「とりあえず何かあったらそこな。いいか?絶対にだ」

『…朝ですよ~、起きてー!とか?』

「それでもいい」

『え…』

怒られると、思ったのに。
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