第2章 桜の前
『言っても私じゃ、敵を引き寄せるばっかりでシークレットサービスに向いてないしね。だからこそまともな志願者がいないってのは事実なわけだけど』
喉から手が出る程に、望んでた。
けれどそんな時期ももう過ぎた。
だって、私にはいないから。
ただでさえ厄介な先祖返りとして生まれてきたのに、その上九尾まで混じってきたときた。
実家での扱いなんてそれ相応のものではあったし。
なんなら、むしろそこから始まったようなものだったし。
「そもそも戦闘向きの妖の先祖返りじゃあないのに、シークレットサービスを付けられないというのも…」
「?戦闘向きじゃねえって…お前、そんなに弱い奴じゃあないのにか」
割って入ってきた幹部様。
連勝に教えられて、先祖返りの知識、そして妖館のシステムについては教えられているらしい。
「確かに九尾の体は少し頑丈な方でしょう。しかし、この子の元には味方の振りをしてでも取り入ろうとする輩が多いのです」
「その口振りだとミケは知ってんのねやっぱり?」
「あとは蜻蛉様…そして今いらっしゃいませんが、夏目さんでしょうかね」
『まあまあ、そんな話してないで早くご飯済ませようよ。私今日久しぶりのオフだから普通に楽しみたいし』
「えっ、でもお前携帯持ってねぇじゃん。危なくね?一人で出かけんの」
またも訪れる沈黙。
『携帯持ってないくらい大丈夫でしょ、昼間に出歩くわけだし』
「お前それで前普通の人間によくある目的で誘拐されて、暗くなるくらいに純血の妖怪に襲われてたの知ってんだぞ?あれ近くにカルタや野ばらがいなかったらどうなってたと思ってんだよ、ただでさえ痛めつけられてたってのに」
『いいじゃない別に。実家と半分縁切ってるし、私今携帯契約できるような出で立ちじゃないんだから』
「いや、手前前科があってそれはまずいんじゃねぇか?」
『は、はぁ?何をいきなりそんなまともそうなこと言っ「せめて持ってれば居場所も知らせられるし、緊急時に連絡できるだろ」いやいや、だから私契約出来ないんだって。そもそも連絡出来るような……あー…いいや、これは。うん』
はあ、とため息をついた上司様。
あれ、何今のため息。
なんでこの人にため息つかれてんの私。
「とっとと支度しろ、手前携帯持たせる」
『え…い、いや、何勝手に決めて…』
「不便だろうが。俺がよ」