第4章 培われしは藍晶石の光輝
首領に中也の執務室に戻るよう促され、その場を後にして彼の執務室の前に来る。
…どんな顔して会おうかな、なんて些細なことでドアが開けられない。
別にやましいことも無いし、悪いことをしたわけでもないけれど。
ただ忘れそうになってしまって。
貴方にどんな顔をして接していたか。
私にとって貴方は眩しいひとだから。
こんな気持ちで相手をしていいようなひとじゃ、ないはずなのに。
笑ったら、いい…?
真顔じゃ怪しまれる、変に気を張っていても疑われる。
そう君みたいに、そつなく表情が作れたらいいのに。
彼が知らないのなら…覚えていないのだろうから、そのままにしなくちゃ。
私が引きずってどうする。
これ以上、彼に負担をかけるんじゃない。
『……な、中原さん。戻りました』
ノックをして、とりあえず行動に移す。
遅いのを疑われるわけにもいかなかったから。
すると中から返事が返される。
「リアか?…中原さん??」
『あ、…中也さ……中也』
「よし、お疲れさん。その様子じゃ特に何事もなかったみた……どうした?」
幹部…私の上司にあたるはずのその人が、わざわざドアを開けに来てくれて。
開けられたその瞬間に、違和感を持たれた。
『何が?』
「いや、なんかあんまり会いたくなさそうだなって」
『…そんなこと言う馬鹿は放って、それなら帰りますわ私は』
「待てよ、いい加減誤魔化されねえぞ。こちとら部下から聞いてんだ、お前組合の頭に勧誘されてんだろ?それ断ってきたって」
『ずるいなぁ、立原君にそんなことさせるなんて。やけに私とフィッツジェラルドさんとのやり取りに興味示してるなと思ったら…』
「何か、考え込んでるだろ」
考え込んでない。
考えちゃいけないだけなの。
何故かって、考えは既に完結しているから。
結末まで描ききったシナリオを考えついてしまったから。
ただ、それを現実にするには…あまりにも希望が薄すぎる。
だから私は考えない。
なにも。
『何も…お腹空いた。ご飯食べ行こう?』
「……望んだって、いいんだぞ」
『だから、何をよ』
「俺にはそこまでは分からないけどな。…何でも、いい。お前の声なら、ちゃんと俺に届くから」
また、こういうことを言ってくれてしまう。
だから貴方は貴方なんだ…“いつ”になっても私はまた…
『ふぅん…お腹空いたんだけど?』