第2章 桜の前
ポツリとこぼして、しかしすぐに笑顔に戻って空気を変える。
『ほら、あの人自由奔放に際限ない人だからさ』
「ああ、それは確かに」
『でもあれねぇ、凜々蝶ちゃんはなんていうか…Mっぽい?』
「「「えっ」」」
ニコニコしている双熾以外の三人の空気が一変する。
『連勝は正直引くレベルでドノーマル。双熾は言わずもがなSだし…うん、凜々蝶ちゃん双熾と相性ピッタリね!』
「き、君は…君のワールドで人のことを語るんじゃない!!」
『私のワールドじゃないわよ、この世の全てのものはSかMかに分類されるの。私は一目見ただけでそれを判別することが出来るから』
「流石リア、蜻蛉様に負けず劣らずの判定ぶりです」
『あ、でも私拷問器具の類にまでは手出さないから勘違いしちゃダメよ?双熾』
「分かってますよ、貴女その類のものは…ああ、まあこの話は置いておきましょう。して、そちらの方は?」
『帽子置き場』
待て手前…、なんてゆらりとその人が喋り出す。
ああ、そう言えばいたなこの人。
私の勘が確かなら、一見M風の隠れS。
面倒なこじらせ方してるわね。
「俺は中原中也。そこの小娘の直属の上司だよ」
「おやおや、リアに向かって小娘とはどういうことです?こんなにも可愛らしくて繊細でいい子のリアに向かって小娘とは、どういう____」
『黙れこのシスコンもどき』
「ああっ、そんな!!僕はただ、リアが訳の分からない男に拐かされないようにと『私がそんじょそこらの人に拐かされるような奴だとでも?』今ここでこんな風に過ごせてるのが不思議なくらいに攫われ続けてるのはどこの誰ですか」
動揺したような声が、聞こえた気がした。
私の上司から。
『仕方ないじゃない、私はそういう運命だって生まれる前から決まってるの。知ってるでしょ?…それにそこの帽子置き場さん、ただの人間だから心配しなくても害はないわよ』
異能力者…ではあるけれど。
妖怪ではないわけであるし。
「……貴女のこれまでのシークレットサービス達のことは調べてあります。よく頑張りましたね」
『…いつもの事だから、だいじょぶ』
慣れたから、もう。
どこか冷めたような心持ちで、そんな言葉を小さく吐く。
撫でられて、少し胸がちくりと痛んだような気がした。