第2章 桜の前
そのままラウンジにて食事の流れになるのだが。
「めちゃくちゃ警戒されてね?俺」
「まあ、女の子のデリケートなとこ乱暴に扱っちゃあそうなるよねぇ」
連勝にしがみついたままでいれば、ほんの少しだけバツが悪そうにうかがわれる。
ふんだ、怒ってんだからねこれでも。
「凜々蝶様、本日の朝食でございます」
しかしそんな私の怒りも、聞こえてきた声にかき消される。
あれ、今聞き覚えのあるような声が聞こえた気が…
そちらを見ると、薄い色素の髪を持った長身のスーツ姿の男が、小さくて華奢な長い黒髪の女の子の傍に立って…いや、お世話をしていた。
「よぉミケ、おはよう」
「!お兄様、おはようございます…、と……おや?」
『……双熾?』
不貞腐れた態度はどこへやら。
ぱぁ、と目の前が明るくなったような気がした。
「お久しぶりです、リア」
『!!ど、どうしてここに…じゃなくて、な、なんで突然?せめて連絡くらいしといてよ、びっくりした』
「あれ?君たち顔見知り??」
連勝の元から離れて双熾…御狐神双熾の元へ行く。
すると、慣れたようによしよしと笑顔で撫でられるものだから、耳も生えるし尻尾も九本ちゃんと生える。
「おい、なんだあれ。なんなんだあれは、なんで俺にはあんなに懐かねぇのに…」
「リアがここにいることは知っていたので、少し驚かせようと思いまして。髪、伸びましたね…けどまた何か溜め込んでいたでしょう。すぐ分かりますよ」
『……シークレットサービスになったんだね。…初めまして、“白縹 リア”です。よろしく』
「!し、白鬼院凜々蝶だ…よろしく」
まさか自分に振られるとは思わなかったのか、黒髪の女の子、凜々蝶ちゃんはそう言った。
『…あれ?白鬼院って…ああ、どうりで見たことあると思った。カゲ様の婚約者だっけ』
「き、君は…?どうしてそんなことを…そ、それに御狐神君とも知り合いのようだし」
「あ、それ俺にも教えて?ミケに関しちゃ全然知らないんだけどお兄さん」
『え?…いや、だって私双熾の従妹だし』
判明したのは何年か前のことだけれど。
そう言うと、色々と納得したように連勝、そして凜々蝶ちゃんが目を丸くする。
「そういえばここには蜻蛉様もいらっしゃるとか。てっきり、リアは一緒にいるものだとばかり…」
『……カゲ様は、多分私がいたら邪魔になるから』