第3章 誰そ彼時のエンジェルイヤリング
夜になって、彼女が眠るまで傍にいて…暫くすると、また始まる。
『…、だ………ぃ、や…』
まだ一緒に寝るようになってからそこまで日も経ってないから、最初の内は気のせいかとさえ思っていた。
しかし、俺が目を覚ましてしまうくらいにはやけに空気が冷えている。
俺はこの少女から、たしかに一緒に寝るだなどということは避けるべきだと忠告を受けていた身なのだが…それでも、そんなんじゃ落ち落ちお前も眠れないだろうと。
面倒を見始めたのなら、最後まで責任を持つべきだろう。
「…泣いていいんだぞ。なんでも、全部受け止める覚悟はしてる」
少女の身体を抱き寄せて、言い聞かせるように声にして。
『ぁ、…いっちゃ、や……ッ』
「いなくならねえよ、阿呆。ずっといんだろ」
『…っ、……、…』
夢の中で追い求めている背中が俺であるということを知ったのは数日前のこと。
俺の名前を呟いていたのが決定的で、俺からしたら衝撃的で。
「……俺、お前にそんなに何かしてやったっけ」
『……、…』
寝ている時が、一番素直に悟らせてくれる。
俺の服を握るので普段精一杯なはずの彼女が、こういう時は腕を回して、必死にしがみついて離さない。
しかし、俺にはどうしても違和感がひとつ拭えない。
ここまで彼女に思われる程、俺はこいつに何かをしてやれたことがないからだ。
何故、こんな人間にすがりつく。
どうしてお前は、最初からこんな奴に…まるでひっついて離れないように、懐いてて…
まるでそれは、今思うと必死に俺について回ろうとしていたように思えて仕方がなくて。
「……リア。お前、俺になんか隠してない?」
『ん、…なかはらさん…』
「中也な」
『……ゅうや、君…おっきくなった、ね……』
呟かれた一言に、心臓を鷲掴みにされたような感覚に陥った。
今、なんと言った?
俺を君付けで呼ぶような素振り、今まで一度も見せたことなど…いや、そうじゃない、そっちじゃなくて。
大きくなったと、確かにそう言った。
「…久しぶり?」
恐る恐る、しかしその先がどうしても知りたくて。
卑怯な手口だなんてわかっている。
それでも…
『…やっと見つけてくれた』
「リア、俺のこと覚えてんの?」
『会いた、かった…っ』
ああ、確信を持つには早計すぎるだろうか。
夢や寝言で判断するだなんて、馬鹿らしいだろうか。