第3章 誰そ彼時のエンジェルイヤリング
薬の前にまた少しお粥を作ってから食べてもらい、薬を飲ませてベッドにまた入れれば、俺に向けられる視線が強まってこていることに気がついた。
『なかはらさん、』
「何だよ」
『…いや、その……行きたいなら、行っていいよ?少しくらい』
「何が?」
唐突に…と言うよりはずっと気にしていたのだろうか。
俺の様子をまたもや伺い始める少女に問い返す。
『あの、ほら…ベランダ』
今日は、つきっきりだったからと彼女は言う。
そのまま言うのを躊躇われて理解するのに少し苦しんだが、それでもベランダという言葉で答えが絞られた。
「ああ、煙草?いいよ、んなこと気にしなくて」
『で、でも吸いたいでしょう?…今日一本も吸ってないじゃないですか』
「今吸う本数減らす特訓してっからそれでいいんだよ」
『……それ禁煙と何かちがうの?』
「どうしようもなくなったら意地でも吸うって心に決めてっから」
全くもって、とんだところにまで気の回る子供だ。
たしかに俺は喫煙者だし、煙草を吸うなら分煙にするつもりだった。
が、俺はこの女の目の前で一度も吸ったことはないはずで。
「お前、なんで俺が吸ってるって?…においか?」
『…それと、その……ちゅうしたら、わかった』
「……リア、俺今日から禁煙するわ。監督よろしく、手始めにこれ明日ゴミに出そうな」
即座に煙草を投げ捨てる。
忘れていた、こいつと恋人になるということは、勿論そういうことをするということだ。
ベランダで吸うにしても抵抗があるだろうに、それを直で感じさせるだなんて。
『!?な、なんで!?私嫌じゃないよ、?』
「俺が吸うには問題ねぇけど、お前の身体に入れんのは俺が無理なんだよ、分かれ」
『え、えぇ…?』
困惑気味な少女は、確かに今吸ってもいいと言ったのだ。
なんだこいつ、普通嫌がる奴の方が多いし、身体に障るとか言ってやめさせようとする奴が大概なのに。
『禁煙って、難しいんでしょ…?…したいことして生きてる方が、いいと思う。私中原さんに我慢させたくない』
「いや、けど俺そこまでヘビースモーカーってわけでもねぇし。匂い付けみてぇなもんだから」
とりあえずよくわかった、こいつ良い奴だ。
絶対良い奴だ、間違いねぇ。
『ふぅん…我慢したら殴るから』
「上等だ、かかってこいや」
『いや、だからしないでって…』