第1章 思い出す
「女をバカにすることを、私は許さない」
その言葉にシャンクスは目を細めた。
先ほどまで思い出していた彼女とは、女である自分を卑下した彼女とは、まったく正反対な女である。
初恋の思い出に少しセンチメンタルになっていたが、女のおかげで少し気分が上がった。
「うちのもんが失礼なことを言った。悪気はないんだ、許してやってくれ」
「・・・悪気はなくとも女をバカにするやつは多いです。私は、女でも海を立派に生きていけることを証明したい、だから、赤髪海賊団の船に乗せてください。足枷にはならないと約束します。お願いします!」
船長として船員の非を詫びると、再度、女は頭を下げた。今度は、誰も笑う者はいなかった。
「まぁそんなにかしこまるような海賊じゃねぇさ。顔を上げて、名前を聞かせてくれ」
「・・・ナマエです」
そろりと窺うように頭を上げ、ナマエと名乗った女はシャンクスを見つめてくる。
不安そうな目だった。果たして自分は船に置いてもらえるのだろうかという不安だろう。
ナマエの覚悟や決意は分かった。分かったが、やはり女を船に乗せることは躊躇われた。
それにナマエはまだ若い。今は海に生きたいと願っても、いずれあの彼女のような選択をする可能性は十分にあり得る。
だから少し、意地の悪いゲームを提案することにした。
「ナマエ、手合せしよう。そこでおれに一太刀でも入れられたら、赤髪海賊団に迎え入れてやる」
船員たちの、乗船させる気なんて全くないじゃないか、という心の声が聞こえてきたが、シャンクスは気づかないふりをした。
今日はかなりの酒を飲んだ。明日は二日酔いで苦しむこと確実だろう。
だからと言ってそれが言い訳になるかと言われれば、まったくそんなことはない。
早い話、シャンクスはナマエに一太刀浴びせられたのだ。
油断をしたとか、隙をつかれたとか、そういうことではない。
ほんの一瞬、シャンクスは戦いを忘れてしまったのだ。