第1章 思い出す
月日は経ち、愛だ恋だで涙を流すことはなくなったけれど、深酒をすると昔の女を思い出す。
あの日のレイリーの言葉通りに、シャンクスは赤髪海賊団を旗揚げしてから男しか船に乗せてこなかった。
正確には、そういう目的の女は何人か乗せたこともあるが、船員として迎え入れることはなかったし、船員になりたいと言ってくる女もいなかった。
しかしそれも、昨日までの話だ。
「お願いします!私を船に乗せてください!」
停泊した島の酒屋を貸切りいつもの様に宴を繰り広げ、自分も船員もだいぶ酔っ払ってきた所に、一人の珍客が現れた。
その珍客はずかずかと騒がしい船員たちを掻き分けてシャンクスの目の前まで来ると、頭を下げてその言葉を口にした。
大きな声は店内を駆け巡り、一瞬の静寂の後、今度は船員たちの大笑いが響き渡った。
「おもしれぇなぁ!お頭乗せてやろうぜぇ!」
「こーんな恥ずかしげもなく頼んでくるの、ルフィ以来じゃねぇか?」
「ルフィよりマシだろ、あいつは頭なんか下げなかったぜ!」
「確かにそうだなぁ、ルフィ元気にしてっかなぁ」
「おいお嬢ちゃん、おれらは海賊だぞ?後悔しないうちに帰りな!」
各々好き放題に囃し立てる船員たちにはぴくりとも反応せず、目の前の珍客は頭を下げ続けている。
お嬢ちゃん、と船員がからかったように、珍客は若い女だった。
腰にはカットラスとダガーが一本ずつ刺してある。それを見た一人の船員がからかうように笑った。
「女のくせに、物騒なもん持ってるなぁ」
ばっ、と、それまで頭を下げて微動だにしなかった女が勢いよく上体を上げ、からかった船員を睨みつけた。それはそれは、すごい形相で。
周りにいた者は思わずごくり、と喉を鳴らした。気圧されたのだ。