第2章 わん!
「なぁ真白、あんたさっき高遠さんに連れ去らてなかった?」
『!?』
家庭科の時間。
同じ班でもあり、友達の祭(まつり)が包丁でトマトを切りながら、鍋を御玉で掻き回している私に聞いてきた。
そういえば廊下で祭とすれ違ったっけ。
祭「高遠さんが教室であんたにブチ切れてたって雛乃(ひなの)からも聞いたけど」
うっ、隠し通せとか無理でしょ。
『ああ、なんかね、カッコいい私の兄弟に嫉妬しちゃったみたいでついカッとなって私に八つ当たりしちゃったみたいなー? でもトイレに連れ去られて謝られたから大丈夫だよ』
ん?
何とか誤魔化そうとしてるから文法めちゃくちゃで逆に怪しくなっちゃった気が。
そんな私の前、トマトを切り終えた祭は包丁を立たせて私を見る。
『祭?』
祭「真白が何もされてないなら良いけど、もし何かしてたら……私やってたわ」
えー何を!?
包丁立たせたまま言われると怖いんですけど!?
「まぁまぁ、何もされてないから大丈夫だよな?」
『う、うん』
そんな私たちの間に割って入って来たのは同じ班の瑞希(みずき)。
器用に野菜をお皿に盛り付けていく彼を尻目に私は鍋に目をやった。
何もされてない、か。
その時、ビリっとお腹が疼いた気がした。
祭「でも、何かあったら言いなよ?」
『え』