第2章 存在証明
島民から銀眼の魔女の情報提供があり、どんな人物かを調べるためこの島に来たのは事実だが、それだけで海軍本部中将であるつるは出動しない。海軍にも狙いがあるのだ。
現在世界は、海賊王が残した言葉によって大海賊時代真っ只中である。毎日のように新しい海賊団が発足し、ひとつなぎの大秘宝を手に入れようと躍起になっている。
そんな中、海軍は常に人手不足だった。
新しい勢力が生まれるたびに人員が割かれ、海賊たちが起こすすべての事件に対応などとてもできない。
今いる海賊たちで手一杯なうえに、ナマエのように力のある者が悪党になることはどうしても避けたいところである。
そして力のある者には、正義の側に回ってほしい。
つるがわざわざマリンフォードから偉大なる航路前半の海まで来たのは、ナマエの素性の確認と、問題がなければそのまま海軍に引き入れる為である。
鷹の目を連れてきたのは、ナマエがもしも厄介者だった時に相手をしてもらう為だった。
もちろん、相手をした結果の生死は問わない。
「なぜ、この島の用心棒のようなことをしているんだい?」
「この島の者には世話になった。行き場もなく彷徨っていた私に、温かい食事と柔らかいベッドを用意してくれた。私が返せるものは何もなかったが、唯一、海賊を追い払うだけの力は持っていた。それで島の者が喜ぶのであれば、私は剣を振るう。それだけだ」
「そうかい。あんたは旅人と聞いていたが、遭難でもしたのかい」
「まぁ、そんな感じだ」
「珍しい服装だ。その髪も目もこのあたりの海では見ない色だね。出身はどこの海だい?」
「私の故郷は存在しない。この世界のどこにもな」
戦争や内乱、海賊の襲撃。故郷を失う理由は、この世界に山ほどある。
しかしナマエの事情は、そのどれにも当てはまらないよう気がした。
「詳しく、聞かせてもらっても?」