第2章 存在証明
「海に投げ捨てたりしないのなら別にかまわない」
つるの心配をよそに、ナマエはためらいもなく背中から大剣を下ろしミホークに手渡した。
ガシャンと重量を感じる音が鳴った。改めて、華奢な身体でこの重さの大剣を扱うことに違和感を覚える。
「随分あっさり自分の得物を渡すんだね」
「自分よりも強い者には従った方がいい。だからここにも付いてきた」
「なんだ、私らが怖いのかい?」
感情を表に出さないようにしているだけで、以外にもこの状況に困惑しているのかと、年相応な感性に少し安心した。
しかしそれは勘違いだった。
「いいや。恐怖なんてものは、もう二度と感じることはないだろう。私はそれなりの経験をしてきている」
奴隷や薬物中毒者、凶悪犯罪者など、感情を失くした者をつるは腐るほど見てきた。
そのどれにも当てはまることのない表情を、ナマエはしている。
それは、つるの想像以上に過酷な環境で、あの大剣を担ぎ生き延びてきたことを語っていた。
一体、この魔女はどのようにして生み出されてしまったのか。
「その経験とやら、とても興味は湧くけどね。今は、別の話をしよう」
「あぁ、私も思い出話を人にする趣味はないからな」
「おいつる。いつまでおれを立たせておくつもりだ。早く部屋に通せ」
そもそも立ち話をしてしまった原因はミホークにあるのだが、何故文句を言われなければならないのか。
今日何度目かのため息を吐いて、つるは応接室へと二人を通した。