第1章 銀眼の魔女
海賊たちが下品に笑う様子を、港の影からミホークとつる率いる海兵たちは静かに見つめていた。
あれが、銀眼の魔女と呼ばれている女だろうか。ルーキーの海賊に殴られるなど、聞いていた話と違うではないか。
しかし、このまま見物していたらあの女もこの島も、海賊たちに壊される。それは正義を掲げる海軍にとって、見過ごすわけにはいかなかった。
つるは部下たちに突撃の合図を送ろうとしたが、それはミホークによって止められた。
「何故止めるんだい?」
「静かにしていろ、これからがおもしろくなる」
何を呑気なことを言っているのだと反論しかけたとき、場の空気が変わった。
海賊たちの方へ目を向けると、倒れていた女が立ち上がり、大剣を構えていた。ぴりぴりと肌を刺すような空気は、女から溢れ出る殺気の様だった。いや、それよりも恐ろしいものかもしれない。
つるがその空気に圧倒され瞬きをし、次に目を開けた瞬間にはもう、海賊たちは全員女の足元に倒れていた。
「っこれは、覇王色、」
「違うな」
あまりに一瞬の出来事だったため、つるの頭に思い浮かんだのは覇王色の覇気だったが、それは隣にいたミホークによって否定された。
「覇気は一切使っていない。全員見事に切り伏せている。それも、死なない程度の傷に調節されている」
ミホークのその言葉通り、海賊たちの苦しげなくぐもった呻き声が聞こえてくる。意識はあるようだが、誰一人として起き上がれないようだ。
「そんなことをあの人数に・・・」
海兵たちも、あまりの出来事に固まってしまっている。そしてそのうちの一人が、思わず、といった風に呟いた。
「化け物」
ひゅんっと刃が風を斬る音が聞こえた。女が大剣の血を払い、再び背中に収めた。
そして、女の銀色の目がまっすぐこちらを見つめてきた。ごくりと、誰かの生唾を飲む音が聞こえた。
「いつまでこそこそしているつもりだ。お前たちも島を荒らしに来たのか」
つるは慌ててしっかりと女に姿を見せた。
冗談じゃない、いくら七武海のミホークと中将であるつるがいるからといって、あんな攻撃をされたら後ろの部下たちが何人いたって足りやしない。
「覗きみたいなまねをしてすまなかったね。私は海軍本部中将のつるだ。この島にはお前さんに用があって来た。話を聞いてくれるかい?」
女は不思議そうに眼を丸くして、しばらく逡巡したのちに頷いた。
