第3章 鷹が動く
怖がられるのは慣れていた。自身が持つ桁外れの能力によって、元の世界では周りに人は集まらない。こちらの世界の人間はとても寛容だった。海賊を追い返しただけの見るからに怪しい自分を受け入れたのだから。
しかし、今こうして海軍が自分のことを調査しに来ているというのは、誰かが通報したということだ。怪しみ怖がる者が、元の世界の様にやはりいるのだ。悲しくはなかった。むしろ海軍に通報するのは普通の感覚だと思う。
そんな通報のあった怪しい者を海兵に、というつるの誘いは、正直ありがたい。
自分を怖がる者がいると知って、これからもこの島に居座るつもりはない。島を出て海兵になるのも一つの手だが、ナマエにはそれができない理由があった。
「ナマエ。あんたの強さは、この世界ではかなりのレベルだ。島民から聞いているだろう、今、世界は大海賊時代だ。誰でもいいわけではない、少しでも、強い力が欲しい。あんたの力を貸してくれないかい」
食い下がるつるに、ナマエは首を横に振ってみせる。
「私は海兵にはなれないんだ。海賊を島から追い返すことが精一杯さ。島民への恩が無ければ、それすらも本当はしたくない」
「これだけの実力だ、そう易々と諦めるわけにはいかない。それなりの理由でなければ、無理矢理にでも連れていくよ」
「海兵が平然と海賊みたいなまねをするなよ」
さらりと誘拐発言をするつるに苦笑した。下手をしたら、海賊より怖い人間かもしれない。
「分かったよ、理由を話そう。先ほど私が斬った海賊たちを見たか?」
「全員が死なぬ程度に切り伏せられていたな。仕損じたわけではないんだな?」
答えたのはミホークだった。
ナマエはミホークからとても強い気を感じていた。もしこの男と剣を合わせたらどうなるか。考えるまでもなく、ナマエはミホークに切り伏せられるだろう。とても敵いそうにない。
声を掛けてきたのがつると海兵だけなら、ナマエはここまで素直に従わなかった。
ミホークがいたから、自分では到底勝つことの出来ない者がいたから、つるに従ったのだ。