第50章 無常 〔山鳥毛〕
「この本丸は良い空気に包まれてますね」
次の審神者はこの審神者にそう話し掛けた。
「きっと貴女様がこの空気を作り上げてきたのですね。私がこれを維持出来るか不安ですけれど、貴女様の守ってきたここを継いで守っていきたいと思います」
挨拶してきた審神者に、「ここの男士たちをどうぞよろしくお願いしますね」と頭を下げて、この老女は頼んだのだった。
審神者が食事をするから、と三振りは一度部屋から出る。
廊下を歩きながら前田が悲し気な表情で山鳥毛に話し掛けた。
「ぼくたちは主様にとても可愛がっていただいたんです。だから主様が代替わりされるのは頭ではわかっているのですが、どうしてもわかり得ない部分もあるのです」
「そうかもしれぬな。きみたちは主が特に可愛がっていたと聞いているから、離れるのは寂しいだろう。しかし人間が先に生を終えるのはわかっている事だ…時間を掛けて受け入れるしか無いだろうな…」
山鳥毛が二振りの肩を軽くぽんぽんと叩くと、二振りはそれでも少し笑った。
そこへがしゃん、と審神者の部屋から派手な音がし、三振りは審神者の部屋も急いで戻る。
「主様、失礼します!」
平野が叫び障子を開けると、かゆの器をひっくり返して布団に倒れ伏す老女の姿が目に入った。
「小鳥!」
山鳥毛も叫び、三振りは急いで他の男士を呼びに行き、また時の政府へ連絡をし、この本丸は慌ただしい張りつめた空気に包まれた。
審神者は時の政府へ運ばれ、そして、その姿が戻ってくる事はなかった。