第50章 無常 〔山鳥毛〕
「小鳥は最後に戻ってくることはないのか」
山鳥毛は話しを戻し、審神者が最後に本丸へ来る事があるのか問うが、歌仙は首を横に振る。
「いや、時の政府から連絡があり、主の現世の身内も既に居ないらしく、主の私物を引き取りにくる、と言われている」
「…そうか…もう私たちはあの小鳥に二度と会えないのか…」
小さくため息をつく山鳥毛を置いて、歌仙は立ち上がる。
「主の私物をまとめておかなくてはならないんだ。平野と前田が手伝ってくれるというので」
「…そうか…私は来たばかりで何の役にも立たぬな」
本丸の造りすら完全に頭に入っていない山鳥毛は、むしろ手伝いの邪魔になってしまうため、そのまま廊下に座って外を眺めているだけだった。
本丸に来て日が浅く、審神者ともほとんど会話は無かったが、それでも最後に話しが出来たのは良かったと山鳥毛は思う。
「人間五十年…化天のうちを比ぶれば…夢幻の如くなり…か…」
呟く声は誰の耳にも入らない。
やがて老審神者の私物が片付けられ、新しい審神者を迎える準備が整えば、本丸の空気も変わるだろう。
本丸は既に新しい審神者を迎える浮かれた雰囲気が漂っているのを、山鳥毛は敏感に気付き老審神者を思い出す。
新しい審神者も今は若くても、あっという間に年を経てしまうのだろう、と思うと人の生は無常だと思うのだった。
<終>